評論家は白黒付けるが
情報分析官は歯切れが悪い

秋山 肉屋とパン屋で思い出しましたが、かつて、政治哲学者のアイザイア・バーリンがハリネズミ(ひとつの大きなことを知っている)とキツネ(小さないろいろなことをたくさん知っている)という2つの人間類型を提起したことがありました。情報収集についても、ハリネズミ型とキツネ型に分けられるそうですね。

上田 評論家は、白黒付け難い状況に何らかの見立てをして一刀両断します。これはハリネズミ型です。おそらくメディアでは、複雑な状況を解説する際に、単純化して、ズバッと言い切るハリネズミのほうが受けがよいでしょう。

 一方情報分析官はつねに臆病で、あらゆる可能性を想定しているため、歯切れが悪いものです。これはキツネ型です。

 インテリジェンスはキツネ的に情報を集め、できるだけ不確実性を減らさなければならない。さまざまな可能性を捨てるわけにはいかず、歯切れが悪くなるのです。情報を簡潔に報告することは大切ですが、それは、さまざまなニュアンスやほかの可能性を捨象して単純化してしまうことではないのです。

 例えば、米国のトランプ大統領が「ひとつの中国を前提としない」と発言して、中国が空母艦隊を南シナ海に派遣したという状況があったとします。

 評論家は「中国が米国の台湾接近を牽制した」と断じます。確かにわかりやすい構図ですが、インテリジェンスではほかの可能性も考えなくてはいけません。

「トランプ大統領の発言がなかったら中国は艦隊派遣をしなかったのか」と問うてみるわけです。「発言とは関係なく、もともと艦隊を出す時期だったのではないか」、「国内の海軍対空軍の予算獲得合戦のための示威行為では」など、いくつかのオプションを考えるべきなのです。

秋山 ビジネスでも早計な単純化や言い切りの誘惑に負けてはいけないのは同じですね。ところで、意思決定者にとって価値ある情報にするための条件とは何なのでしょうか。