鉄道の定時運行は
ファシズムから始まった

 拙著『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)の中で詳しく論じているが、「日本の鉄道は世界一」「時計のように正確な日本の鉄道」という自画自賛のムードは、大正から昭和にかけての、鉄道輸送力の強化という「国策」のもとに形成された。

 さらに、いま我々が「日本人の乗車マナーは世界一」なんて言って喜んでいるものも、日本人の礼儀正しさとか、民度の高さなどではなく、単に国家による「啓発運動」の賜物なのだ。

 1944年、当時の運輸通信省は来るべき決戦に備えて、鉄道の「総親和運動」を展開。5月19日の「読売新聞」には「列車の遅延は決戦輸送の障害」として「守れ乗車道徳」と以下のように呼びかけている。

「乗降に際しては一列乗車、左側待合せ乗車、入り口を塞がずに中に詰めること、荷物を網棚か腰掛下へ入れること」

 これは今、JRや地下鉄でアナウンスされていることとほぼ変わらない。つまり、日本人が誇りに思う「定時運行」や「乗車マナー」は、乗客が便利だからとか社会が求めたからなどという理由から生じたものではなく、「お国のため」という極めてファシズム的な発想がルーツにあり、それが現在にも続いているのだ。

 もともと日本という“組織”のために始められたものなので、どうしても“個人”が置き去りになる。つまり、「定時運行」に執着するあまり、「乗客の安全」が二の次にされてしまうのだ。