前回は日本の自動車メーカー8社による合同企画「Drive Heart」の事例をもとに、若者のクルマ離れが深刻化するなかで「クルマの本質的価値」をどのように伝えていったかを取り上げた。今回はもう少し広い視点でマーケティングやブランディングの潮流を見ながら「企業におけるブランドの本質的価値とは何か」、さらに「その価値をいかに成長につなげるか」といったポイントを深堀りする。

その企業、ブランドだけが
持ちうる本質を探る

 今回のお話は企業のマーケティングに焦点を当てていきますが、個人の「セルフ・プロデュース」という観点に置き換えても参考にしていただける点があるのではないかと考えています。所属企業の枠組みを超えて「自分に何ができるのか」を考え、自身のコア・コンピタンスを見定めた上で、その卓越性を高めていくことが求められる時代は遠からずやって来るでしょう。そのときに備えて、みなさんの個人としての成長に役立てていただければ大変嬉しいです。

 まずは日本の産業の現況を振り返ってみましょう。日本の産業というのは戦後、生産技術を中心に成長してきました。しかし、現代には既にモノや情報があふれてしまっています。また震災の影響もあって“本当に必要なものしか消費しない”という傾向も顕在化してきました。今や「技術的に優れているから売れる」という時代ではないことは、みなさんもお気づきのことかと思います。

 これによってマーケティングやブランディングの目的にも変化が起こっています。これらの活動の目的は、かつては「認知」とされてきましたが、情報大洪水時代といわれる現在、商品や企業名をむやみに流しても人の記憶には残りづらいでしょう。

 一方で商品やサービスのコモディティ化も進み、機能による差別化もやや限界に近づいてきているように感じます。たとえば携帯電話は細かな性能や機能に差はあっても、主要な点ではどの製品もある程度同じくらい高性能で一定範囲の価格帯に収まっています。これまでの製品とはまったく異なる革新的な製品は別ですが、そうでもなければそれぞれの機種の特徴を正確に理解することはかなり難しいのではないでしょうか。

 そして、今はソーシャル・メディアの時代です。マス・コミュニケーションのようにブランドが一方的に語るだけではなく、生活者一人ひとりが発信する忌憚のない意見がそのブランドを形成する大きなポイントになっています。この傾向は今後一層加速すると思われます。

 商品名の認知だけでは不十分。機能による差別化も難しくなってきている。だとすれば、ブランドは一体何を、どうやって伝えていけばよいのでしょうか。そこで重要となるのが「情緒的付加価値」です。生活者に対してアピールすべきは「商品そのもの」ではなく、商品を購入することによって「どんな充実したライフスタイルを送れるか」といったエモーショナルな価値なのです。