薄型テレビ、ブルーレイ、パソコン――。今、家電の花形製品が熾烈な価格競争に巻き込まれ、底なしの下落に見舞われている。この下落ぶりを見ていると、家電市場がこれまでと異なるフェーズに突入したかのような印象さえ受ける。原因は、長引く不況による需要の減少ばかりではない。一筋縄ではいかない構造的な要因も見え隠れする。市場で起きている「異常事態」の背景を探ってみよう。(取材・文/岡 徳之、協力/プレスラボ)
なぜ家電がこんなに安いのか?
かつてない異常事態が今、起きている
「最近、家電がやけに安くなったな……」
休日に家族と一緒に家電量販店を訪れるとき、こう感じる人は多いのではないだろうか。
今、家電が安い。大型テレビが5万円を割り込み、人気機種のパソコンが10万円を切るケースも珍しいことではなくなった。少々古いモデルに至っては、「半値以下」というケースもザラだ。
消費者から見れば、家電の値下げは喜ばしい変化であることは間違いない。しかし、それをつくって売っている家電メーカーにとっては一大事だ。致命的な打撃を被りかねない大きな問題である。
デフレが続き、いまだに不況から抜け切れない日本では、これまでも家電や外食をはじめ、ありとあらゆる業界で値下げ合戦が繰り広げられてきた。こうした状況は、「価格破壊戦略」と揶揄されたこともあったが、それはあくまで企業の「戦略」の範囲内で行なわれていた。
しかし、「最近の家電価格の下落ぶりを見ると、企業戦略の範疇で起きていることとは到底思えない」と、デジタル家電に詳しいある男性会社員は感想を漏らす。あたかも、家電市場そのものが、これまでと異なるフェーズに突入したかのようだ。市場では、いったい何が起きているのだろうか。背景を探ってみよう。
まず実際に、足もとで家電の価格はどれほど下落しているのだろうか。
家電の調査会社BCNによると、国内の40インチ薄型テレビの平均単価は、今年2月に7.18万円となった。昨年2月が10.81万円だったことを考えると、たったの1年で3万円以上値下がりしていることになる。サイズを問わずに、薄型テレビ全体の平均単価推移を見ても、やはり値下がりは著しい。昨年2月の6.38万円から、今年は4.69万円まで安くなっている。