中島 そのように目的を明確にとらえると、従業員を大事にするのは当然のことになります。各種ハラスメントを防止し、安全でよい職場を実現しなければ、よい商品・サービスなど提供できません。取引先を選ぶに当たっても、「消費者の期待に応える」という同じ志を持った企業を選ぶのは当然です。

 このように目的意識を持って個別的にステークホルダーへの配慮を考えるべきなのです。ところが、それをひとくくりにして、「多くのステークホルダー」と言ってしまうと、漠然としたスローガンみたいになってしまい、消費者、従業員、取引先、社会、株主の位置づけがゴチャゴチャになってしまいます。

 それぞれのステークホルダーの期待を個別的に真剣に受け止め、一つひとつ誠実に対応していく。そのことが企業価値の向上につながります。

秋山 そこで難しいのは、株価形成のジレンマがある点です。本来の株価は、おおまかにいうと、企業がどれだけキャッシュフローを生み出すかという将来の期待(企業価値)を現在の価値に割り引いて評価したものです。つまり企業がちゃんとしたフリーキャッシュフローを継続して生み出せるであろうというのが本来的な「将来の期待」(企業価値)です。

 ところが、実際には目先の利益が上がれば株価も上がってしまう。そうすると、株価が上がることで株主から喜ばれるだけでなく、M&Aや増資などもしやすくなりますから、経営者は将来の利益を度外視してでも今年の利益を上げることに血道を上げてしまうというジレンマが生じます。

中島 そこが問題です。ある大手企業の社長が、「配当を増やせば株価が上がると思っていた」と発言していました。実際は、高額配当をしてもその会社の株価は上がりませんでした。投資家も株主もきちんと会社を見ていることがわかりました。企業を見る世間の目も肥えてきたと思います。

秋山 『株主を大事にすると経営は良くなるは本当か?』にもありますが、では企業はどのように経営をすべきなのかというと、その企業はどのような方針や理念で会社を起こしたのかという、経営理念に意思決定と言動を合わせていくことが大事なのですね。受け身的にコンプライアンスや法律を守ることばかりに注目していると、「これはしてはいけない」「これもだめ」というネガティブリストだけになって、結局何を基準に進んでいけばよいのか?ということになって迷ってしまう。

中島 企業は、きちんとした数字の根拠を示したうえで、ビジョンと夢を語るべきです。リアルに実現できるものであることを示すことが企業価値になります。例えば食品会社が経営理念として「豊かな食生活の実現」というキャッチフレーズを掲げたとします。それだけでは、なかなか消費者、世間、株主から本気だとは受け取ってもらえない。本気であることを示すためには、食材をどう調達していくのか、調達で環境保護の配慮はどうするのか、製造工程で安全確保に向けてどのような努力をするつもりなのか、よりおいしくするためにどのような工夫をするつもりなのか、といったリアルな目標を示すべきです。