反体制派のサウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏がトルコのイスタンブールにあるサウジ領事館で殺害されたとされる事件は(事実であれば)、それ自体恐ろしいことだが、これによって噴出しかねない事態は、さらに恐ろしいものだ。ムスリム同胞団、トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領、イランの宗教指導者らは、遺体に群がり、罪なき1人の男性の死から、政治的利益を得ることを狙っている。カショギ氏は、非常に行動的でじっとしていられないサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子にとって、目の上のこぶのような存在だった。ムハンマド皇太子が直面している一連の問題は、サウド王家がこれまで経験したことのない類いのものだ。敵対的で尊大で野心的なイランは、バグダッドからダマスカスを経てベイルートに至る地域に「シーア派三日月地帯」の刻印を容赦なく刻み込んだ。米国の石油と天然ガス生産の急拡大は、石油輸出国機構(OPEC)を弱体化させた。ムスリム同胞団に好意的でオスマン帝国のかつての栄光再現の夢を抱いているトルコは、サウジをイスラム教スンニ派の世界を代表する勢力の地位から引きずり下ろそうとしている。ロシアは、この地域での影響力を取り戻そうとしている。そしてサウジ国内では、より多くの機会と政府のより良いガバナンスを求める国民が増えている。しかし、伝統的な王政国家は21世紀に対応する準備をほとんど整えていない。