このように、肝臓は生命活動を維持するために極めて重要な役割を担っていますが、それに加えて再生能力が強いことも大きな特徴です。少々の障害が生じても症状を呈することなく知らぬ間に再生します。それが「沈黙の臓器」もしくは「忍耐の臓器」とも呼ばれる理由です。

 例えば、肝臓の3分の1が何らかの原因で失われても1~2ヵ月で再生するという、他の臓器にない性質を備えています。丈夫で再生能力が大きい肝臓にがんが発生するには、相当なダメージの蓄積が長期間持続する必要があります。すなわち、B型ないしはC型の肝炎ウイルスの感染や大量のアルコール摂取の習慣などを背景に慢性肝炎が長期間持続することで、肝臓細胞が死滅と再生を繰り返しているうち、徐々にその再生能力が失われ、遺伝子変異が誘発されてがん化するのです。

肝臓がんの95%は「肝細胞がん」
肝硬変は10年以内に70%が肝臓がんに

 ところで、一口に肝臓がんといっても、肝臓自体から発生するもの(原発性)と、他の臓器(胃・大腸・膵臓・乳腺など)に発生したがんが転移して発生するもの(転移性)とがあります。原発性と転移性では生物学的な性格が異なり、予防法や治療方針が異なります。

 肝臓がんと表現する場合は、一般的には原発性のものを指します。原発性肝臓がんには、肝細胞がんと胆管細胞がんがありますが、95%が肝細胞がんです。今回は、肝臓がんとして典型的な「原発性の肝細胞がん」について解説します。

 原発性肝細胞がんの90%は、ウイルスの感染が原因です。そのウイルスにはB型とC型があり、前者が20%、後者が70%です。B型およびC型の肝炎ウイルスに感染し肝臓の炎症が慢性化すると、肝臓の細胞の壊死と再生が繰り返されながら肝硬変に移行していきます。

 肝硬変は肝臓障害の終末像で、肝硬変に至ってしまうと元に戻ることはありません。そして、肝硬変の状態では遺伝子の突然変異が非常に活発になり、がんの発生につながります。肝硬変に至らなくても肝臓がんが発生することがありますが、肝硬変になってしまうと10年以内に70%で肝臓がんが発生するといわれています。