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AirPlay 2対応スマートテレビ Samsung

 毎年1月は、テクノロジー業界の一大イベント「CES」が米国ラスベガスで開催されます。その年の家電やエンターテインメントを中心としたテクノロジーのトレンドを方向付けたり、新製品への期待を高めるとても楽しいイベントです。

 サムスン、LGといった企業は最新のテレビを披露しますし、グーグルやアマゾンはスマートスピーカーを核とした家電連携を拡げる発表にも注目が集まります。

 残念ながら、アップルはCESには参加しません。しかし間接的に存在感を示しているようです。

 ワシントン・ポストによれば、アップルはラスベガスに巨大な屋外広告を登場させています。「What happens on your iPhone, stays on your iPhone.」(あなたのiPhoneで起きることは、あなたのiPhoneにとどまる)というプライバシー広告。シン・シティのスローガン「What happens in Vegas stays in Vegas」(ベガスで起きることはベガスにとどまる)をもじったフレーズです。

 アップルは他のソフトウェアや人工知能アシスタントと異なり、デバイス内にプライバシー情報をとどめ、サーバに送信しない仕組みであることをアピールしています。深読みをすれば、「グーグルやアマゾンのソフトウェアや人工知能アシスタントを使っていて大丈夫なの?」というわけです。

●AirPlay 2対応テレビが続々登場

 アップルがCESに出展しないと書きましたが、CESに合わせて新たな機能がアナウンスされました。AirPlay 2はHomeKitとともに新たに用意された、iPhoneやiPadと様々なデバイスの連携を取り持つ機能です。

 そのAirPlay 2のページの英語版に、「Coming Soon」として、新たにスマートテレビやiPhoneの画面でのコントロール機能、そしてSiriによるテレビのコントロールの機能がアナウンスされました。

 AirPlay 2はこれまでオーディオを再生するスピーカーのラインアップが充実してきました。しかし半年遅れていよいよビデオ、テレビの機能に対応したデバイスが登場することになります。

 LG、サムスン、そしてビジオ(Vizio)など、米国で人気のある高機能スマートテレビメーカーがAirPlay 2対応を打ち出しました。しかもiTunesの映画やドラマといった映像コンテンツも、テレビだけで利用できるようになるとしています。

 これにより、Apple TVを追加しなくてもiPhoneと連携させたアップルブランドのエンターテインメント環境を実現することができるようになります。

●AirPlay 2対応製品が増えた2つの理由

 アップルは今後の決算発表で「その他の製品」を分解し、「ウェアラブル」と「ホーム」といった製品カテゴリに細分化することを明らかにしています。ウェアラブルにはAirPods、Apple Watchなどが含まれます。一方のホームにはApple TVとHomePodが控えます。

AirPlay 2はHomeKitとともに、このホームカテゴリの中核技術であり、Apple TVとHomePodはそれぞれSiriを搭載しながら中核技術に対応する、ビデオとオーディオで最良の体験を提供するためのデバイスとして設計されました。

 一方、オーディオデバイスに続いてスマートテレビもAirPlay 2に対応させ、Apple TVやHomePodなしでもiPhoneやiPadとの連携を深める道筋を示しました。つまり、ホームカテゴリについては自社製品にこだわらない、ユーザーは好きな対応製品を使えば良い、というスタンスになったのです。

 これには2つの見方があります。

 アップルは複数のデバイスを連携させる際、体験を非常に重視します。だからこそ自社製品間の連携をベストな環境としてきたわけです。しかし今回の動きを見ると、AirPlay 2をしっかりと作り込んでいるため、他のメーカーのデバイスとの間でも最良の体験を実現できると踏んでいるかもしれません。

 もう1つはサービスをにらんだ対応です。iPhoneユーザーに対してサブスクリプションサービスをいかに使ってもらうかがアップルにとって重要な指標となってきました。Apple Music普及のためにAirPlay 2対応スピーカーの拡充に努めてきましたが、映像のAirPlay 2対応デバイスの充実は、動画のサブスクリプションサービスの下地作りに見えます。

 アップルはAirPlay 2で対応デバイスを拡げる戦略に出ていますが、ここで競合と異なるポイントは、音声アシスタントまで搭載させるかどうかです。

●Siri対応製品が増えることは考えづらい

 アマゾンもグーグルも、スマートスピーカーと連携するデバイスを用意するだけでなく、デバイスから直接音声アシスタントを利用できる仕組みを提供しています。こうして、自社デバイスの販売に関係なく、アシスタントが利用できる増えていく戦略を採っています。

 アップルもこうした音声アシスタントをサードパーティーから呼び出せる戦略に舵を切るのでしょうか。個人的には、難しいのではないかと考えています。

 アップルの音声アシスタントSiriは、すでに膨大な台数が市場に出回っているiPhone、iPad、Mac、Apple Watchから利用でき、ホーム製品ではApple TVとHomePodで利用できます。競合が躍起になってアシスタント対応デバイスを増やさなくでも、既に十分に普及している状況といえます。そのため、自社デバイス外で無理にSiriを対応させなくても良いのです。

 加えて、冒頭のプライバシーの問題が関係します。アップルはSiriを含めて、できる限りユーザーのデータをiPhoneの中にとどめようとつとめます。そのため、Siriをサードパーティーデバイスに対応させようとすると、ユーザーデータをクラウドもしくはそのデバイスへ持っていかなければならなくなり、冒頭にあげた屋外広告のステイトメントがくずれます。

 プライバシーは、テクノロジーの加速度的な発展に制限をかける傾向にあります。アップルはそうした制約の中で、現実的な音声アシスタントの発展を目指しているのです。ただし、プライバシーはブランド化しつつあります。そして選択するのは、そのプライバシーデータの源であるユーザーです。

 理解の上で、進歩的なテクノロジーを選ぶのか、コンサバティブに自分のデータを守るのか。2019年もこの議論は続きます。アップルにとって最大のリスクは、iPhoneやiCloudのプライバシーの脆弱性を突かれ、データが流出することでしょう。


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筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura