14年に患者数の少ない悪性黒色腫で承認を受けたときは、100ミリグラムで薬価約73万円となった。100ミリグラムとは、例えば体重66キログラムの化学療法未治療の成人患者の場合、2週間に1回の点滴で必要な量の約半分にすぎない。

 15年に患者数の多い肺がんでも承認されると、「肺がん患者約5万人が1年使ったら総額1兆7500億円」(國頭英夫・日本赤十字社医療センター化学療法科部長)などと、高額であることがクローズアップされた。薬価改定は原則2年に1回だが、「緊急対応が必要」と厚生労働省が動き、異例の期中改定で17年2月から半分の約36万円になった。

 さらに18年4月からの薬価制度の抜本改革で「適応が広がって投薬量が増えた薬の価格を見直す」というルールが新設され、通常の薬価改定などと相まって約24%ダウンの約28万円となった。

 高額薬剤費の値下げは、もっぱら公的医療保険財政のためである。患者は1~3割負担の上、一定額以上は自己負担をせずに済む高額療養費制度を利用できる。極論を言えば国民皆保険の日本の患者にとって自己負担の上限を超える価格の薬は、そこからいくら高くなろうと安くなろうと自分の財布には影響ないのである。

 しかし、高額療養費制度で自己負担を超えた分をカバーする原資も結局は国民から集めたものだ。自己負担と公的負担のバランス、命の値段をどう考えるか。医療財政が逼迫するさなかにおいて、答えを出せずにいる。