ブレーキ部分は「免疫チェックポイント」と呼ばれ、ブレーキを邪魔することでがん細胞への攻撃をオフからオンにするため、「阻害剤」なのである。オプジーボは「PD-1」という分子を標的にしてブレーキを邪魔するため、抗PD-1抗体と呼ばれる。
オプジーボが「夢のがん治療薬」と呼ばれるゆえんは、がんが進行した患者に対して効果を示していることにある。効能効果の正式名称を見ると「根治切除不能な」「切除不能な進行・再発の」「難治性の」といった冠がそれぞれのがんに付いているのはその証左だ。
例えば肺がん患者を対象にした海外での第3相試験では、利用できる最良の治療である標準治療より死亡リスクを約4割低下させた。
オプジーボ開発につながるPD-1の発見と機能解明の功績で、“オプジーボの生みの親”といわれている京都大学の本庶佑名誉教授は、毎年秋になるとノーベル賞候補と騒がれている。それほどまでに画期的なものだった。
大阪の中堅製薬会社にすぎなかった小野薬品はオプジーボによって世界から注目を浴び、業績も好調。17年3月期は過去最高益を更新した。
国内で承認された免疫チェックポイント阻害剤はオプジーボに加え、米ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)の「ヤーボイ」、米メルクの「キイトルーダ」、独メルクと米ファイザーの「バベンチオ」、スイス・ロシュと中外製薬の「テセントリク」の五つ(3月4日時点)。英アストラゼネカも承認申請中だ。
製薬業界では年間売上高1000億円を超える薬は大型品に位置付けられ、「ブロックバスター」と呼ばれる。クレディ・スイス証券が算出したピーク時予想売上高はいずれも1000億円を超える。
国内で先頭を切って治療対象のがん種をどんどん広げているオプジーボだが、万能なわけではない。効果があるのは対象がん患者の2割程度。8割には効かない。目下、どのような患者に効果があるのかをあらかじめ絞り込むための研究が進められている。
重大な副作用も確認されており、死亡例も出た。小野薬品は「間質性肺疾患、重症筋無力症、筋炎、大腸炎、重度の下痢、1型糖尿病、肝機能障害、肝炎、甲状腺機能障害、神経障害、腎障害、副腎障害、脳炎、重度の皮膚障害、静脈血栓塞栓症、薬剤の注入に伴う反応」に対して、特に注意が必要としている。
夢のオプジーボが
「命の値段」議論に火を付けた
オプジーボは画期性がある故、薬剤費が高額だ(下図参照)。命の値段は幾らなのかという議論に火を付けた。