900円のサンマ vs. 900円のジーンズ

 この主張は、情緒的にはわからなくもありません。しかし、私であれば消費者として、いらないものは買いませんし、欲しいものは買います。消費者にとって大事なことは、その商品をお金を払ってでも欲しいのか、いらないのかという純粋な気持ちです。百貨店で900円で売られている高級サンマを買う人がいても、スーパーで900円で売られている格安ジーンズを買う人がいてもよいのです。900円というお金で「ちょっとした贅沢」を買うのか、「お買い得感」を買うのかは消費者の選択です。

 実は、一昔前、ものが飛ぶように売れた時代(いわゆる右肩上がりの時代)の成功体験が頭に残っている人ほど、純粋にお客様がなにを求めているかよりも、原価率が高いから詐欺だとか、昔のやりかたと違うからだめだとか、「昔話」や「精神主義」でものごとを考えがちです。これは企業の理屈であり、消費者の理屈で考えていないのです。お客様視点という言葉が流行りましたが、実態は、いまだに多くの企業で真逆のことが行われています。

 900円のサンマは、なぜ価格が高くても売れるのか。この理由を考えることが、ブランドが持つ価値の本質に迫ることになります。ここでは「この商品はなぜ売れるのか(売れないのか)」という議論でなく、「お客様はなぜ買うのか(買わないのか)」という質問に置き換えて因果関係を考えるべきです。

 たとえば、人はなぜ高級ブランドバッグを買うのか。彼ら彼女らは何よりも、その商品を身にまとうことによって得られるイメージや雰囲気に対してお金を払っている――このことを素直に受け入れ、それでは「良いイメージ」を自分たちがいかにつくっていくか、という観点から戦略を組み立てなければなりません。「合皮を使っているから不誠実だ」などと、精神主義、提供者の理屈で考えてしまうとブランドの本質はみえなくなり、ブランドで業績をあげることは難しくなります。

 連載最終回となる次回は、さらに身近な商品を通じて、ブランドで競争する技術を探っていきます。


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