精神疾患や発達障害になると、影響度がさらに大きい。統合失調症、自閉症、ADHD(注意欠陥多動性障害)は80%前後が遺伝によって説明される。

 いずれにおいても、家庭の共有環境の影響はないに等しい。子育て中の親にショックを与えた行動遺伝学の3原則の二つ目は、共有環境の希少性(子育てはあまり関係しない)だった。

 だが、これには例外もある。知能と学業成績、それに喫煙などの物質依存、器物破損、窃盗などの問題行動などでは、家庭、親など共有環境の影響が25~55%と比較的大きいのである。

 小学校時代の国語の成績でも、遺伝の影響が約50%に対して、38%は共有環境の違い、15%は先生や本人の中で変えられる要因の違いによる。

 こうした環境とは具体的に何なのか、特定できないのか。米国の心理学者のアンジェラ・ダックワース氏が、人生で成功を収めるために大切なものとして提唱した「グリッド」(難題に粘り強く取り組み、やり抜く力)はどうか。

 行動遺伝学ではこのグリッドは、ビッグ5の勤勉性などと同じような形質で、その個人差は遺伝と非共有環境から成ると考えられ、候補から外れる。

 実は別のアプローチの研究から、学業成績に影響を与えている環境要因が挙がっている。

 家庭における時間的・物理的な混乱(秩序)の度合いを示す「カオス」という指標だ。

 カオスというのは「家ではたいていテレビをつけっ放しにしている」「いつも決まった時間に就寝する」といった幾つかの質問によって、家の散らかり具合や時間のルーズぶりを測る。ある調査では30~45%とされた共有環境の影響度の中で、5%ほどはこの混乱度という具体的な要素で説明がつくという。こうした研究は今後、さらに蓄積が期待される。

 生まれながらの要因と同様、家庭内の工夫を軽んじてはいけないのは言うまでもない。