一目で分かるように米国は政府部門の赤字が圧倒的に大きいのだ。政府の財政赤字(貯蓄不足)が家計の貯蓄を上回り、国全体の貯蓄不足、つまり経常赤字となっている。貯蓄不足は言い換えると消費・投資過剰であり、それが貿易収支の赤字ももたらしている。

 景気が拡大局面にあるにもかかわらず、トランプ氏が打ち出した大型減税策こそが財政収支の悪化を招いた。その意味では、“自業自得”といえる。

 しかも深刻なのは、米財政赤字が一段と拡大する見通しであることだ。赤字を補填するための政府の資金調達が拡大すると長期金利を押し上げ、経済活動に悪影響を与えかねない。世界全体の経済をけん引する米経済の急激な失速は最も恐れるべきシナリオ。だからこそ米国は財政赤字を抑制し、経常収支悪化を回避すべきなのだ。

 一方で経常黒字の大きさが目立つEU(欧州連合)、そして日本において一定の財政赤字を抱えるものの、その分を家計と企業の貯蓄が上回り、潤沢な経常黒字を確保している構図が見て取れる。

 日本政府の債務残高がGDP(国内総生産)比で2倍超に上る突出した水準にあり、単年の財政赤字によって悪化傾向に歯止めがかからない中で「危険ゾーン」に入っていることは大問題だが、経常黒字が財政赤字のデメリットを顕在化させずにいる構図がある。

 こうしたデータを基に麻生財務相のメッセージをかみ砕くと、トランプ氏に対し「他国の貿易・経常黒字だけが原因なのではなく、あなたの国の財政赤字が貿易赤字や経常赤字の一因でもあるのだから、いたずらに2国間の貿易交渉にこだわらず、(経常収支の)不均衡是正に努めましょう」と諭そうとしているように思える。

高齢化率が高くても
経済成長が鈍化するとは限らない

 一連の構造問題を考える際は、中長期的な時間軸で捉えることも必要だ。そこで鍵となるのが下図の通り、G20全てに共通する高齢化の問題。麻生財務相も高齢化は「あらゆる国が遅かれ早かれ直面する重要な課題」として、議論を重ねたいとの考えを示している。