この季節になると家電量販店でよく見かける「毛玉取り器」。かつてはハサミやブラシを使用し、長時間かけてちまちま毛玉を取っていたものだが、このツールの登場で大幅な時短を実現。ニッチなニーズをがっちり捉えてシェアナンバーワンを誇る泉精器製作所に、毛玉取り器の開発秘話を聞いた。(清談社 松嶋千春)
服を着たまま使える
特許技術を開発
泉精器製作所は、長野県松本市に本社を置く業務用電設工具や家庭用電気製品の製造販売会社だ。長年培ってきた独自の精密加工技術を生かした電気シェーバーは、同社の代名詞ともいえる。
今やメジャーな家電メーカーからも発売されている毛玉取り器だが、最初に製造したのは同社だという。その誕生は30年ほど前にさかのぼる。
「もともと扱っていた電気シェーバーの構造や機能がヒントになっています。『電気シェーバーの外刃の網目をもうちょっと大きくしたら、これで毛玉もカットできるんじゃない?』という、女性社員のアイデアから生まれました」(商品企画部 後藤啓之さん)
当初はOEM供給からスタートし、約20年間製造を続けた。供給先の会社の家電事業撤退を機に「毛玉とるとる」を自社ブランドとして引き継ぎ、約10年たつ。
「OEM先のシェアを引き継ぐかたちでしたが、そこからデザインや色も変更し、徐々に数字が上がっていきました。大きな転換期だったのは、特許取得技術を搭載した2014年モデルの発売ですね」(後藤さん)
刃の回転方向を変えることによって、着たままでも生地を傷めず毛玉をカットできる「ケアモード」搭載モデルが登場したのだ。
「作りだした当初は、『生地に穴が開いた』というクレームが多かったです。『生地を平らなところに広げて優しくあててください』と使い方を案内するのですが、やっぱり加減を間違えると生地が刃の中に入って傷んでしまう。それを軽減するために、『どんな使い方をしても生地が破れない』ということをずっと目指してきました。『着たまま使えたらいいのに』というお客様の声も生かすかたちで、刃の駆動の開発と特許の取得に至りました」(後藤さん)