シェアライフは基本的に「信頼」で成り立つもの

シェアによる「人とのつながり」が、人生をもっと豊かにする【鈴木美穂×石山アンジュ】鈴木美穂(すずき・みほ)
認定NPO法人マギーズ東京共同代表理事 元日本テレビ記者・キャスター
1983年、東京都生まれ。2006年慶応義塾大学法学部卒業後、2018年まで日本テレビに在籍。報道局社会部や政治部の記者、「スッキリ」「情報ライブ ミヤネ屋」ニュースコーナーのデスク兼キャスターなどを歴任。2008年、乳がんが発覚し、8か月間休職して手術、抗がん剤治療、放射線治療など、標準治療のフルコースを経験。復職後の2009年、若年性がん患者団体「STAND UP! ! 」を発足。 2016年、東京・豊洲にがん患者や家族が無料で訪れ相談できる「マギーズ東京」をオープンし、2019年1月までに約1万4000人の患者や家族が訪問。自身のがん経験をもとに制作したドキュメンタリー番組「Cancer Gift がんって、不幸ですか?」で「2017年度日本医学ジャーナリスト協会賞映像部門優秀賞」を、「マギーズ東京」で「日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2017チーム賞」を受賞。2016年以降、厚生労働省「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」「がんとの共生のあり方に関する検討会」「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」、PMDA運営評議会、都庁「AYA世代がんワーキンググループ」などで複数の行政委員を兼任。

石山 シェアライフは基本的に「信頼」で成り立つもの。つながりを増やし、心を豊かにするためのキーワードは「信頼する・信頼される人間を目指す」だと考えているのですが、美穂さんはどう思いますか?

鈴木 わかります。人と人とのつながりは、最終的には信頼という言葉に集約されますものね。

石山 では、「信頼する・される自分」になるにはどうすればいいのか。とても難しいテーマではありますが、きょう美穂さんと話していて「すべてをさらけ出す」が一つの答えだと改めて思いました。

鈴木 私なんてダメダメですよ。ダメなところをさらけ出しているだけで…。

石山 まさにそれで、弱い部分やダメな部分こそさらけ出すことで、周りから「嘘のない人」と信頼されるようになり、「この人を助けてあげたい、サポートしたい」とつながりが生まれるのではないかと思うんです。

鈴木 実は、今まで「美穂だからできるんだよ」と言われて何度となく傷ついた経験があるんです。全然完璧じゃないから、それを補うためにたくさんの人に支えてもらいながらなんとか一生懸命頑張っているのにって。でも、今のアンジュさんの話を聞いて、「人はみんな完璧じゃなく、補い合って生きているんだ」とあらためて思いました。みんなそれぞれの事情、課題を抱えながら、もがきながら頑張っている。人は完璧じゃないという前提に立つと、みんなが愛しく思えるし、抱きしめてあげたいと思える。

石山 素晴らしい。美穂さんは人を信頼し、信頼され…信頼関係の中で生きているんですね。

鈴木 とはいえ、何度も裏切られてきましたよ。そうありたいと思っていますが、うまくいかないこともありますよね。特に報道の仕事では、信頼だけでは成り立たない現場もたくさん見てきました。ただ、例えば犯罪に手を染めた人でも、その裏にはいろいろな事情がある。一側面だけ見て否定するのではなく、「その裏にある事情」を想像する。それが、信頼する力・される力につながると思っています。

石山 本の中でも紹介したのですが、「用心するに越したことはない」という発想の人よりも、「世の中の多くのことは信頼できる」という思考の人のほうが幸福度が高い、という調査結果があります。「信頼の境界線」をどれだけ広げていけるかで、人の幸福度は変わっていくんじゃないかと思うんです。美穂さんはきっと、その境界線がすごく拡張されているんだろうなって。

鈴木 実際そう。人を信頼しすぎて周りから「人を信じすぎないように」と言われるぐらい(笑)。旅行先で全財産すられるようなタイプだし(笑)。でも、その人の事情を想像すれば怒りも収まるし、失ったものはいつか回かまわって返ってくるだろうし。リスクがあったとしても「あったら考えればいいし、きっとその時の自分が何とかしてくれる」と考えるタイプ。

石山 私も同じタイプかも。結果的に傷ついたら、その時考えればいい。

鈴木 そういえば、私一人暮らしってしたことないんです。学生時代は実家で、社会人になってからは、闘病していた時以外は友達と2人でルームシェアして住んでいて。そして何かやりたいことができたら、大体その友達が巻き込まれる(笑)。マギーズ東京を作りたいとなったときも、リビングで一緒にマギーズの構想を練ってくれたりとか。

石山 めっちゃシェアライフですね!

鈴木 私の強みは、「自分一人ではできないとわかっていること」だから(笑)。実は、昨年末に会社を辞めたばかりで、ちょうど孤独や不安を感じていたんです。そんなときに『シェアライフ』を読んで、そして今日アンジュさんと話をして、個人としていろいろな人とつながっていけたらきっと大丈夫だし、みんなで協力して目指す社会を作っていけたらいいんじゃないかって勇気が出ました。すごく元気をもらえた!

石山 そう言ってもらえて嬉しいです。「個性」とか「個人主義」「オリジナリティ」って少し昔の話になっている気がしていて、それよりも最近は「私とあなたの共通点は何だろう」「2人のオリジナリティを見つけよう」と考えることに居心地の良さを感じる人が増えている印象なんですよね。個性を問われる機会も、昔に比べると減っているような感覚。
「私はこういう個性を持った人間です」と主張しすぎなくても、共感できる人とつながっていけるような。

鈴木 でも自分の「大きな軸」は必要ですよね?私の場合は、みんなが理解し合える包括的な社会を作りたいという軸がある。

石山 その「軸」って、どんな人からも共感されるものだし、応援したいと受け取った人が自分ごととして思える軸じゃないですか。「個性」のように自己完結しているものではないから、その軸をフックにいろいろな人とつながっていける。新しいオリジナリティの在り方だと、美穂さんを見ていて思います。

鈴木 なるほど!ストンと腹に落ちた!(笑)これから世界一周の旅に出てしまうけれど、世界でもたくさん「シェア」の取り組みを見てきて、戻ってきたらアンジュさんとも何か一緒にできることを考えたいです!

石山 ぜひ。世界で見聞きしたことをどんどん発信してください。楽しみにしています!