86歳の祖母が私の本を読んで「昔もこうだったのよ」なんて共感してくれた

シェアによる「人とのつながり」が、人生をもっと豊かにする<br />【鈴木美穂×石山アンジュ】石山アンジュ(いしやま・あんじゅ)
内閣官房シェアリングエコノミー伝道師。一般社団法人シェアリングエコノミー協会 事務局長
1989年生まれ。都内シェアハウス在住、実家もシェアハウスを経営。「シェア(共有)」の概念に親しみながら育つ。2012年国際基督教大学(ICU)卒。新卒で(株)リクルート入社、その後(株)クラウドワークス経営企画室を経て現職。 「シェアガール」の肩書でシェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを提案する活動を行うほか、政府と民間のパイプ役として規制緩和や政策推進にも従事。総務省地域情報化アドバイザー、厚生労働省「シェアリングエコノミーが雇用・労働に与える影響に関する研究会」構成委員、経済産業省「シェアリングエコノミーにおける経済活動の統計調査による把握に関する研究会」委員なども務める。2018年米国メディア「Shareable」にて世界のスーパーシェアラー日本代表に選出。ほかNewsPicks「WEEKLY OCHIAI」レギュラーMCを務めるなど、幅広く活動。

石山 そういえば私、子どものころすごく戦争映画が好きだったんです。

鈴木 小さなころから「生き死に」を考えていたということ?

石山 そうです。自分でも不思議なんですけれど、学校の授業で戦争について学ぶより前から興味があって。戦争は、人の意思とは関係ないところで行われ、人はそれに巻き込まれてしまうのですが、そんな「個人の人生」と「社会」の関係性を知りたいという欲求がすごく強かったんですね。レンタルビデオ屋さんに行くと、ずっと戦争映画コーナーに張り付いているような子ども。…なんかここだけ切り取るとすごい変な人みたいに見えちゃうけれど(笑)。

鈴木 確かに(笑)。

石山 その後、『世界がもし100人の村だったら』を読んで、海外の貧困など世界に目を向けるようになったことで、「地球という目線で見たら、自分が生きているこの日本の小さな社会って単なる1サンプルでしかない」とも思えました。
親が離婚した自分みたいな人もいれば、今まさに死と向き合っている人もいるし、家族と離れ離れになった人もいる…でも、地球から見れば一つひとつ別々のものではなくて、地球に存在する人類すべてが「血縁じゃない家族体」みたいなものじゃないか。そう子どもながらに思ったことが、目の前のことではなく「社会」に目を向けるきっかけになったんです。

鈴木 「そんなアンジュさんが作りたい社会」の集大成が、この『シェアライフ』なんですね。

石山 今、さまざまなシェアサービスがどんどん生まれていますけれど、根本的には「シェア」文化って昔からあるんですよね。日本には昔から分かち合いの文化があって、江戸時代の長屋では鍵もかかっていなかったし、みんなで子どもを育てようという感覚があった。もっと昔は贈与経済、つまり「お互いさま」で経済が回っているような時代もあった。日本に根付く東洋思想ならではの「すべてのものに神が宿り、ともに生きている」という精神のもと、共生の中に自らの存在を見出し、他者との関係性を大事にするような私はあなた、あなたは私」の思想はとても現代に必要な価値観だと思うし素晴らしいし、これだけテクノロジーが発展した今、新たな形で、生活や仕事あらゆるものやコトをもいろいろな場所を分かち合えるサービスが数々現れていることに魅力と可能性を感じて、今このような活動をしているんです。

鈴木 テクノロジーによって便利になったこともあるけれど、そのために失われたつながりが、シェアリングサービスの出現によってまたつながるようになった…なんてことも出てきていますね。

石山 86歳の祖母が私の本を読んで「昔もこうだったのよ」なんて共感してくれたんですよね。戦前にあった社会が、新しい形で蘇ったことを喜んでくれて、「これなら未来は明るいわね」とも言ってくれて…とても嬉しかった。戦後は資本主義社会が進行して、マイカーやマイホームを得ることが幸せのロールモデルでしたが、今はむしろモノを買わない時代。だからこそシェアが活きてくる。

鈴木 モノよりも、シェアによる「つながり」がほしいんですよね。

石山 その通りです。これだけモノがあふれていて、基本的には衣食住に困らない中で、私たちが感じる幸せはモノで得られるものではなく、人に共感してもらうことなど「人とのつながり」で得られるものに代わってきている。自身の居場所がたくさんあることが自分の幸せにつながっているということに、みんな少しずつ気づき始めているんです。

鈴木 確かに。

石山 人の「つながりたい欲求」自体は、普遍的なものだと思うんですよ。その中、今までは美穂さんみたいなコミュニケーション力が高くて人脈がある人が、つながりを作りやすい社会だったのかなと。でも、テクノロジーが発展したことで、そのハードルが下がっていると感じます。SNSやシェアサービスなど、人とつながる新たな手段が生まれて、1つ2つではなく、さまざまなコミュニティとつながれるようにもなってきたと感じます。以前だったら、家族と会社、学生時代の友達ぐらいしかなかった「つながりポートフォリオ」が、テクノロジーによって「SNSを通じて趣味嗜好や関心ごとでつながる」とか「シェアサービスという消費でつながる」など、選択肢が増えた。

鈴木 つながりはたくさんあったほうがいいですよね。1つのつながりがうまくいかなくなっても、他があるから大丈夫と思えたり、「ここでは相談できないけれど、別のつながりならば話せる」と思えたりするのは精神的に楽。「いろいろなつながりの中で生きている」と実感できると、人は幸せを感じやすくなると思うんです。