この企業がオフィスを移転することになったのは約9カ月前。当時入居していた古びたオフィスビルのオーナーが代わり、マンションに建て替えることになったからだ。新しいオーナーからは、移転費用の一部を負担することを条件に移転を迫られた。
当初の悩みは、周辺の相場よりもかなり安い家賃でオフィスを借りていたため、移転費用に加えて固定費用がアップすることだった。ところが、この幹部を一番苦しめたのは、そもそも空室が全く見つからないことだった。
複数の不動産仲介業者に相談して物件を紹介してもらったり、飛び込みで訪問してきた仲介業者からも情報を得たりした。だが、条件の合いそうな物件に空室が出ても、すでに入居している企業の増床などですぐに埋まってしまう。
不動産情報データベースに条件を満たす物件が掲載されたが、2日後には1番手の申込者がいたケースもあった。話を聞くと、日本に進出するためにオフィスを探しているという中国企業だった。
だが、ビルのオーナーは、その中国企業に対して不安を抱いているという。ならば2番手でもいけるかもしれないと考え、家賃交渉をせずに申し込んでみた。
結果は惨敗。後に理由を探ってみると、「この中国企業はかなりの現金を準備していたらしい」(前出の幹部)とのことだった。
入居中のビルオーナーに随時状況を報告し、何とか期限を延長してもらい物件を探し続けた。だが退去の期日を過ぎているために損害金が発生し、移転費用の補填分が相殺されていく日々だった。
コンペや家賃上乗せ オーナー優勢と痛感
資金繰りにも要注意
そこで、オフィスがある渋谷区は空室率1%台の激戦区であるため、対象エリアを新宿区に拡大。そうした中、具体的に検討した物件の一つが下図の事例だ。