電子システム化は
正しいのか否か?
もちろん労働者たちは、こうした行政側の言い分に異を唱える。反対派の労働者のひとりは「行政は何もわかっていない」と怒りをあらわにしつつ、こう言うのだ。
「新しいセンターになってから、電子化かなんか知らんけど余計なことするから業者が敬遠して仕事ものうなったんや。わしらに死ねゆうのんと同じや!」
この労働者の言う“電子化”とは、旧センター廃止に伴い導入された仕事紹介のためのシステムを指す。従来、西成では、「手配師」と呼ばれる建設業界などの求人担当者らが、労働福祉センターにやって来て、「あんこ」たちを集めていた。新システムでは、原則として、スマートフォンのアプリに企業側が登録しなければ、求人活動ができなくなる。このシステム導入で行政側は「闇求人の撲滅」「悪徳業者の排除」もできると胸を張る。
事実、ここ西成では、劣悪な条件で求人活動を行う悪徳企業が後を絶たなかった。これを行政側は阻止すべく新システムを導入したという。また、センター閉鎖も、こうした悪徳業者の排除に役立つと期待されている。
匿名を条件に話をしてくれた警察官も、「確かに耐震性の問題もあるが、センター閉鎖で排除したいのは労働者ではなく、センターを拠点とする貧困ビジネスと地のやくざ」と話す。
しかし、たとえやくざであっても、労働者たちからすれば“貴重な仕事をくれる人”。「彼らがいてくれるからこそ、誰でも仕事にありつけるのに」という認識の人も少なくないようだ。ある労働者はこう話す。
「そんなめんどくさいもん、企業側が乗るかいな。ややこしいと敬遠して、企業が西成に来んようになってる。『行政は余計なことするな』と言いたい」