国際商品相場が動き始めた。金は1トロイオンス当たり1400ドルを突破して、6年ぶりの高値を付けた。原油は、イランが米国の無人偵察機を撃墜したことをきっかけに5%前後の急騰となった。こうした中、世界景気の先行指標として注目される銅相場は上値が限定された推移になっている。

 銅相場は中国の景況指数悪化や米アップルの売り上げ見通しの下方修正など悪材料が続く中、1月上旬に1トン当たり5725ドルと底値を付けたが、その後、米中貿易摩擦を楽観する見方が徐々に優勢となり、4月中旬には6608.50ドルと昨年7月以来の高値まで上昇した。しかし、米中貿易協議や中国の景気動向に対する楽観は行き過ぎていたとみられ、その後、高値が修正される動きとなった。

 5月初めには、コンピューターによるプログラム売買が主導したとされる相場急落があった。

 5月5日には、トランプ米大統領がツイッターで2000億ドル相当の中国産品に課す制裁関税をそれまでの10%から25%に引き上げると表明した。その後、中国政府が600億ドル相当の米国産品に最大25%の報復関税を課すと発表すると、米政府はそれまで制裁関税の対象から外れていた3000億ドル相当の中国産品の関税を上乗せする手続きに入るとした。

 さらに、トランプ氏は中国・華為技術(ファーウェイ)を念頭に、国家安全保障上の脅威となる外国企業の通信機器の使用を禁じる大統領令に署名した。一方、中国では共産党機関紙である「人民日報」が「貿易戦争での反撃のため、レアアースを活用する用意がある」と警告した。このように米中の対立は激しさを増し、世界景気悪化に対する懸念が増幅していった。

 5月の製造業PMI(購買担当者景況指数)が判断基準となる50を下回るなど、銅の最大消費国の中国では、実際の景気指標も悪化が目立つようになった。銅相場は6月7日に一時5740ドルと、1月の安値近くまで売られた。

 その後、チリのチュキカマタ鉱山で労働組合員3000人超がストライキを実施したこと(14日)、トランプ氏がツイッターで中国の習近平国家主席と電話で良い会話をしたと投稿したこと(18日)、米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げを行う可能性が示唆されたこと(19日)などが強材料となり、銅相場は6000ドル前後まで持ち直している。

 しかし、米利下げ観測を受けて、米国株が高値を追う動きを見せるのに対して、銅は上値が重い。安全資産である金が上昇し、原油の騰勢は地政学リスクによる面が大きいこともあり、国際商品市況からは、世界景気の好調を示すリスクオンのメッセージは強くない。

(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)