「幸福度&住みよさ自治体ランキング」に
抱く違和感の正体
地域の幸福度や住みやすさを、経済規模、所得水準、雇用状況、歳出規模等経済的な魅力だけではなく、自然環境、地域のつながり・絆、教育、文化・教養、安心・安全等非経済的な魅力の両面から評価し、自治体の政策に役立てようとする試みとしては、古くは旧経済企画庁「新国民生活指標」が挙げられる。そして現在では、一般財団法人日本総合研究所「47都道府県幸福度ランキング」や、東洋経済新報社「住みよさランキング」が代表的だ。
筆者は富山県魚津市の出身。例えば、東洋経済新報社「住みよさランキング2019」では、全国で9番目に住みやすい自治体と評価されている。故郷が高評価なのはうれしい限りではあるものの、違和感があるのもまた事実である。
具体的には、こうした指標が測定しているとする幸福度や住みよさが、そもそも誰にとっての、誰から見た幸福度や住みよさかが明らかではない点。次に作成方法に関して、さまざまなデータが採用され試算されているが、そうしたデータの採用基準に客観性がない点。そして一番違和感を覚えるのは、幸福度が高く住みよいはずの自治体のなかに、流入してくる人口よりも流出する人口の方が多い、つまり社会減となっている自治体も多くある点である。
暮らしやすい自治体から、わざわざ暮らしにくい自治体や幸福度が低くなる自治体に移動するとは通常考えられない。
自治体間の幸福度比較には意味がない
ある人が現在居住している自治体を出て別の自治体に移るのには、なにか必ず理由があるはずだ。つまり、人は自らの価値観(自治体の経済的な魅力や非経済的な魅力をそれぞれどの程度重視するのかしないのか)に照らし合わせて、その価値観に合った居住自治体を選択すると考えられる。
したがって、現在の居住自治体を出てほかの自治体へ移住する場合もあれば、元の自治体にそのまま住み続ける場合もある。つまり、現居住自治体に満足しない者は自らの満足度をより高められる自治体に移動しつつ、家族を形成するなどして、次第に定着していく。
これは、一般的に、進学や就職、結婚、子育て(就園・就学)などに際して若い時ほど移動し、年を取るほど移動しなくなることと整合的である。経済学でいう「足による投票」だ。
要するに、人が居住自治体を変えるのは、その人の幸福度や住みやすさを向上させるためである。もちろん、移住にはさまざまなコストがかかるので、潜在的な移住希望者が全員移住できるとは限らないものの、総じて見れば、それぞれの自治体に残っている人の幸福度にはそれほど違いがないと考えるのが妥当である。
そこで、筆者の所属する中部圏社会経済研究所では、自治体の魅力を測る際に、幸福度や住みよさという極めて主観的で人のさまざまな基準に依存するのではなく、自治体間の人口移動と自治体内の人口構造に着目した「地域力指標」を開発した 。
地域力指標とは、地域の人を惹きつける魅力を示す「地域力フロー指標」と、地域の持続可能性を示す「地域力ストック指標」を総称したものである。
地域力フロー指標と地域力ストック指標の算出方法は後述するとして、まずは「地域力フロー指標」から導き出した、人を惹きつける本当に魅力ある自治体ランキングを見てみよう。