
レビュー

「夫婦幻想」。配偶者のいる人なら誰しもドキリとさせられ、思わずページをめくりたくなる……そんなタイトルではないだろうか。
本書『夫婦幻想 子あり、子なし、子の成長後』は、著者がさまざまな形の夫婦を最長で20年にわたって継続的に取材し、ルポルタージュとしてまとめた一冊だ。たとえばある男性は、「男は仕事、女は家庭」の古き良き時代の夫婦を理想とし、その理想を実現してくれる女性と結婚する。しかし仕事に邁進するうち、家族との溝は深まっていき、子どもから「お父さんなんて、もういなくていい」と言われてしまう。またある夫婦は、妻が夫よりも早く昇進したことをきっかけにギクシャクしていく。子どもは持たないと決めたはずなのに、夫婦関係が冷えていくにつれ、その決断を後悔するふたりもいる。いずれも、お互いに「幻想」を抱いていることが一因であるようだ。
どの夫婦のストーリーも、テレビドラマほど劇的ではなく、ありふれたものにも見える。それなのに読者は、目を離すことができない。それは、怖いもの見たさだろうか。それとも、自分たちの姿を見ているような気持ちにさせられるからか。
本書の最後で、「夫婦幻想」から抜け出す方法として提案されるのは、どんな人間関係にも共通する、ごく基本的なふるまいだ。要約者は、ドロドロしたルポルタージュを読んだ後ということもあり、少々拍子抜けしてしまった。だがその普通さが、「夫婦は家族であって、他人でもある」という事実を思い出させてくれるとともに、本書の味わいをいっそう深くしてくれたのだった。(庄子 結)