ただ、メンタルヘルスの観点から労働時間を減らすことは、きちんと考える必要があります。労働時間を削減するために、日本の企業や政府がやっていることには、一定の意味はあると考えます。

 冒頭で述べたとおり、現状の日本は働き方改革と称して、やる気もなく生産性が低いまま労働時間を削減しているので、競争力が下がっています。このままでは、やる気があり、かつ寝る時間も惜しんで働いてアウトプットが最大化していく中国の企業とは戦えないでしょう。

適切な評価と柔軟な時間配分が
現代の日本に合った働き方のカギ

 競争力を高めつつ、現代の日本に合った生産性の高い働き方を目指すには、評価制度を変え、能力に応じた報酬を社員に与える必要があります。では、社員の生産性を測るための適切な評価は、どのように行えばよいのでしょうか。

 日本企業のマネジメントは、マネジメントとして機能していないことが多いといえます。日本企業は、誰が見ても計量できる「時間」で社員を管理することで、マネジャーが楽できる仕組みになっています。しかし本来は仕事の中身、つまり能力やアウトプットが大切なはず。日本でも能力評価、業績評価など、組織ごとに評価軸をつくってきちんとした評価を行う必要があります。

 以前は「日本人はハードワーカーでアメリカ人はあまり働かない」とよく言われたものですが、あれは全くの嘘です。確かにアメリカでは、夕方の4時半や5時になれば帰って、6時ぐらいから家族と食事をし、家族との時間を過ごす人が多いのも事実。でもその後、夜8時や9時から再び家で仕事を始めたり、あるいは朝、オフィスへ出社していなくても、早い時間から家で仕事していたりするのです。

 こうした仕事の仕方は、確かに自分で自分の時間配分にバランスが取れていなければ、メンタル面も含めて健康を害する可能性もありますが、自分でそういうライフスタイルを選べている点がポイントです。日本ではこうした働き方は、労働基準法があるため一律にできないことになっていますが、これができれば救われる家族はたくさんいると思います。柔軟性がない制度のせいで、共稼ぎ家庭で片方の親ばかりに家事や育児の負担が集中するといった問題も生じるのです。

(クライスアンドカンパニー顧問 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)