かつては社会人野球やラグビーの新日鉄釜石を所有するなど、新日本製鐵はアマチュアである企業スポーツを積極的に後押ししてきた。しかし、住友金属工業と合併した時期は長引く業界不況のあおりを受ける形で、経営の合理化が進められた真っ只中にあった。

「スポーツエンターテインメント事業を担う会社に経営者を送り続けることを含めて、素材産業である鉄鋼業とのシナジー効果がなくなってきた。(時代の流れの中で)難しくなったと思っています」

 住友金属工業出身の庄野社長の言葉を踏まえれば、日本製鉄、鹿島アントラーズ・エフ・シーの双方が、時代の流れにより適した筆頭株主を探していたことがうかがえる。あくまでも一般論と断りを入れた上で、村井満チェアマンもJリーグに訪れている新たな潮流をこう説明する。

「日本製鉄はB to B(企業間取引)の会社ですが、消費者との接点を直接持つB to C(企業対消費者取引)の会社が持つ知見も今後、クラブの成長にとって非常に貴重なものになると思っています」

 Jクラブ経営に参入しているRIZAPグループやサイバーエージェント、そしてヴィッセル神戸の親会社・楽天株式会社はB to C企業の代表格だ。そして、フリマアプリやモバイルペイメントを事業の柱として、創業からわずか6年半で急成長を遂げたメルカリも典型的なB to C企業となる。

 メルカリは2017年からアントラーズのスポンサーに名前を連ね、昨年からはユニフォームの鎖骨部分にロゴを掲出している。Jリーグの黎明期からアントラーズが貫いてきた理念を理解した上で、ホームタウンとホームスタジアムの現状維持に賛同したことで、鹿島アントラーズ・エフ・シーの発行済み株式の61.6%を約16億円で日本製鉄から取得することが承認された。

 他のB to C企業とメルカリとの違いは、株式が完全に譲渡された後に、小泉文明取締役社長兼COOが鹿島アントラーズ・エフ・シーの代表取締役社長に就任することとなるだろう。ベルマーレとゼルビア、そしてヴィッセルの経営トップが親会社のそれとは異なっている点に、新体制に取締役として名前を連ねる予定の庄野社長はこう言及する。

「地域創成に対してもかなりコミットしていただいている。腰をすえて取り組むからこそ、(小泉)社長が自ら乗り込んでくる。そこに(メルカリの)決意を見ています」

 Jリーグ屈指の名門ゆえに、アントラーズの経営権譲渡は各方面に大きな衝撃を与えた。しかし、その実情は貫かれてきた歴史と伝統を継承しながらアジア、そして世界と肩を並べるビッグクラブへ成長していくための極めてポジティブな選択であり、重厚長大型企業から新興のベンチャー企業が親会社の担い手となりつつある、21世紀を迎えたJリーグを取り巻く環境が映し出された鏡でもあった。