小林喜光Photo by Hideyuki Watanabe

企業が持続的に成長するには、「人材育成」と「ガバナンスの強化」が欠かせない。新時代に求められるヒトと組織の改革について、経済同友会前代表幹事の小林喜光氏に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

――ここからはヒトと組織についてお聞きします。(上)では新たなテクノロジーを活用してビジネスモデルを転換することの重要性について語っていただきましたが、そういう能力は従来の幹部養成システムで育つのでしょうか。

 かなり難しいから、デザインシンキングのできる人を、外国人も含めて社外から連れてくる傾向が強くなっているのでしょう。事業ポートフォリオのトランスフォーメーションと同時に、人材のトランスフォーメーションが絶対的に必要です。

 つまり人材の入れ替えです。50歳以上の本当のプロフェッショナルへの流動化が進むでしょう。古い感覚の人はどこか別のところへ行ってもらって、非常にグローバルな新しいセンスを持った人たちに実際マネジメントをやってもらうようになってきています。

――中小企業の経営者には他人事に見えてしまう部分もあると思います。

 企業の大小にかかわらず、これをやらないと負ける。そういう切迫感を持ってやるべきです。

 東芝はエレクトロニクスの会社ですからデジタルの人材がいそうなんだけど、そうは大勢いないから、サイバーフィジカルシステム(実社会にあるデータを収集し、サイバー空間で分析し、価値を創出するビジネスモデル)をやるためにソニーや、独シーメンスから人を呼んできました。

 三菱ケミカルホールディングスにも外部人材を登用する伝統があります。米IBMにいた人にCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)をやってもらったり、CTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)をMIT(米マサチューセッツ工科大学)の教授に任せたりしてきました。

 人材の入れ替えをどんどんやらないと企業の文化は変わりません。僕なんかが社外で講演したり、新聞、雑誌の取材で話したりして、その内容を社内にフィードバックしても、「会長は本当にそう考えているの?」って。社員はなかなか信用しないものです。だからトップが言うだけでは文化は本当に変わりません。

 要するに新陳代謝が日本はなさすぎたのです。自動車業界でまだ8社、化学業界に至っては売上高1000億円以上の会社が何千とある。醤油屋さんが1300社もあるんですから。

 農業でいえば一町から一反くらいの水田をやって、手塩に掛けた自分のコメはうまいって言っている人ばっかりなのです。でかいトラクターを使って、大規模な水田で作ったコメの方が本当はいいはずなのですが。やっぱり農耕民族には、狩猟民族のゼロイチの感性がない。狩猟民族というのは、羊なり何なりをうまい仕掛けで全部持ってくる。負けた人はゼロ、勝者が総取りする世界で生きている。

 良い悪いは別として、根源的に日本人は農耕民族的です。この株主資本主義の社会で狩猟民族と戦うには、そのままではやっぱり駄目です。良い面は残しつつ、変えるべきところは変えないといけません。狼の群れの中に羊一匹入っていったら食われて死んじゃうだけですから。