菅義偉官房長官が「4割引き下げる余地がある」と発言したのをきっかけに、かつてない激動の時代に入った携帯電話業界。トップのNTTドコモの吉澤和弘社長に胸中を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 村井令二)
――2018年8月に菅義偉官房長官が「携帯電話料金は4割下げる余地がある」と発言したのをきっかけに、携帯の通信料金と端末代金の分離を義務付ける法律改正に至り、秋にも改正法が施行されます。かつてない激動期の1年の動きをどう振り返りますか。
「スマートフォンの料金は複雑すぎる」とか「もう少し安くならないのか」という声は(菅官房長官の発言の)以前からありました。同時に、「通信料金と端末代金がミックスされた売り方はいかがなものか」とか「それが料金を分かりにくくさせている」という指摘も前からあったものです。
高額のキャッシュバックで携帯会社の乗り換えを奪い合うという競争は、実は今でも続いています。そこまでになったモバイルの競争を健全化させるという意味で、この1年の通信と端末の分離の動きには、われわれ自身も賛同した。そして、分離プランに対応した。そんな1年だったと認識しています。
――昨年8月の官房長官の発言の後、ドコモの動きは速かった。同年10月末の中間決算で「2~4割下げる」と、いち早く表明しました。
(官房長官の)発言がどうというより、私たちは「マーケットリーダー」になると宣言しているので、自らの判断で、お客さんの声を先取りして行動したかった。今年10月の楽天参入もあるので、それも意識して「2~4割」と先手を打ったわけです。
――それも自らの判断であって、官房長官の「4割下げ」発言は影響していないと?
もちろん、われわれが発表した数値は「2~4割」ということでしたので、「4割」ということを意識しなかったというと嘘になる。ある程度は意識して決めた数字です。
でも、(官房長官の言う通りに)全部4割値下げにしてしまったら事業に与える影響は甚大になってしまう。事業の状況をみながら判断しなくてはいけない。それで、(親会社の)NTTとも議論して、昨年10月の段階で「来年度(2019年度)第1四半期には2~4割の値下げを考えたい」と表明したという経緯ですね。
――結果、今年6月1日から、新料金プランの「ギガホ」「ギガライト」を導入しました。反応はいかがですか。(編集部注:開始1ヵ月で新プランに移行したのは275万人、7月23日時点で375万人)
新料金プランの価値は皆さんに感じてもらえていると思っています。
14年6月の前回の値下げ(「カケホーダイ&パケあえる」を導入)のときは、1ヵ月後に500万人が移行しましたが、それと比べると今回は少ないようにみえます。当時は通話の完全定額制を導入したので、法人のお客や、大容量のユーザーがどっと移ってきました。
それに対して今回は、「月々サポート(2年契約の通信料割引プラン、5月31日に新規受付を終了)」を契約中のお客がたくさんいて、基本的に、2年間の月々サポートが終わった方から順番に移って来るという流れになっているので、どっと来ることはない。ですが、巡行速度だと思っていて、その意味では順調です。