ゼネコン列最前線[第6回(上)]五洋建設 清水琢三社長 Photo by Yoshihisa Wada

明治時代に海軍の工事を中心に手掛けた創業以来、海洋土木(マリンコンストラクション)に強い準大手ゼネコンの五洋建設。1960年代に海外進出を果たし、連結海外売上高比率は約3割と、大手ゼネコンよりも高い。大手ゼネコンが海外展開を加速するために国外でのM&A投資を強める中、五洋の清水琢三社長に同調する気はゼロ。それはなぜなのか。(聞き手/ダイヤモンド編集部 松野友美)

買収した現地企業に任せるのは
五洋になじまない

――大手ゼネコンはテクノロジーの開発や海外市場の拡大のために海外の会社を買収しています。

 基本的にうちは、あんまり考えていない。海外へ展開するとき、スーパーゼネコン(大手)は地場の会社をM&A(企業の合併・買収)して、そこをベースにやろうとします。しかし、われわれは自分たちがベースになって拠点をつくり上げてきて、外国人も日本人と同じように育てている。

 今シンガポールと香港の拠点が成功しているのは、現地の営業所として直接やっているからです。非常にガバナンスが利いていると思います。香港だったら広東語がしゃべれないと現場の指示もできない。日本人が行ってもほとんど役に立たないです。ただ、契約や技術的なところを見ることはできるので、サポート部隊として必要です。

 だから私は、現地企業を買って別会社にして現地の人に任せるっていうやり方は、非常にリスクがあって、五洋建設にはなじまないと思っています。人事制度も含めて国際部門の外国の人たちをどういうふうにマネジメントするかが重要。留学生がたくさん日本に来ていて、彼らの中に五洋建設への就職を希望している人も多くいる。そういう人たちも含めて、自前で体制を整えていきます。

 また、海外は人材を確保しやすいので、いい仕事を取って、お金(給料)を出したら働きたい人が来てくれます。その代わり、工事が終わったらうちの仕事からは離れていきますが、それでいい。

 他社は「海外建設事業を伸ばす」とおっしゃっていますけれど、質の高いインフラで、日本がODA(政府開発援助)で進出する工事っていうのは、仕事が続かないんです。一つの国でずっと工事できるわけではなくて、次は隣の国、さらに隣の国って、移らなきゃいけないんです。これでは拠点がつくれない。人材も国によって言葉や文化が全部違いますので、ある規模にまでは急激に伸びるかもしれませんけれども、それを継続して安定して、根を生やして事業化していくのは、なかなか難しいんですよ。

――海外での強さは国内ゼネコンの中で際立っています。

 1961年にスエズ運河の工事に参加して以来、本格的に海外進出を始めました。シンガポールに出ていったのが1964年。香港ももう30年以上たっています。

 シンガポールと香港はわれわれの拠点としてローカル化が進んでいます。子会社をつくっているわけじゃありませんが、外国人スタッフが1900人ぐらいいる。日本人は国際部門に180人ぐらいで、少数が入れ替わりながらやっています。現地に根を生やして、現地の人を雇って、現地の人が仕事をしています。拠点っていうのはそうやってつくらないとなかなかできないです。

 両国とも現地政府から公共工事を、政府系企業から港湾工事や、埋め立て工事、地下鉄の工事、病院の工事などを競争入札で受注しています。だから現地政府なり現地の企業から仕事がもらえないような国・地域は基本的には拠点にならない。海の分野から建築分野に出て、陸上にも出ることで、バランスよくやっています。

 ちなみに五洋建設は英語でペンタオーシャン、ペンタって言うんですが、シンガポールではだいたいの人がペンタを知っています。

 では、「シンガポール、香港に次ぐ拠点はどこですか?」って言われても、「すぐ、ここだ」と言えない。今は大型のODAを日本政府が一生懸命進めていますから、それによってインドネシア、バングラデシュ、あるいは、アフリカに出ていくでしょう。でも国や地域が分散しているのでそれをどうやって施工していくか、というところが課題ですね。

――海外の企業と組んで案件を取りにいくのですか。

 はい。例えばシンガポールで大型埋め立て工事をやっていますが、五洋建設と韓国のヒュンダイ、海洋土木が得意なオランダのボスカリスがそれぞれの強みを生かしてJVで取り組んでいます。日本同士で組んでやっているわけじゃない。それだと入札に勝てない。

 おかげさまで、香港、シンガポールも引き続き需要があります。競争は特にシンガポールで激しくなっています。競争相手は中国勢や韓国勢、そしてローカル。ただ、簡単な工事は価格勝負になるので、技術的に難しい大型工事こそわれわれのチャンスなんです。昨年8月にはシンガポール陸上交通庁から国内を南北に走るノースサウスコリドー高速道路を造るプロジェクトを受注しました。北側は高架橋で、南側は市街地で営業中の地下鉄がある所の上下にトンネルを造る難易度の高い工事です。五洋建設は入札時の価格が他の候補企業よりも圧倒的に高かったんですが、技術提案が五洋建設以外は通らなかったので受注できました。だから、「入札価格にこれだけ差があったら取れないな」と思うようなものでも、しっかり真面目に取り組めば評価してもらえる。

――準大手・中堅ゼネコンでは、後継者不足への対応や国内の基盤強化のために、国内M&Aを行うケースが目立っています。準大手である五洋建設も国内M&Aを考えていますか。

 いっとき前はハウスメーカーがゼネコンを買っていましたね。中高層の建物を建てたいハウスメーカーは、施工管理や工事をやるにはゼネコンの技術者が必要で、ゼネコンと合併していきました。それはそれで一つの流れだと思います。

 でも、うちはどっかとくっついた方が、損するでしょう。