あるとき、こんなことをおっしゃる50代男性の患者さんがいました。
「先生、タバコ吸うとさ、胸がグッと締め付けられるような感じになるんだよ。パチンコしてる間も痛くなるし、店を出てゆっくりタバコ吸ってるときなんか、特にひどいんだ」
以前、休日にも同じように胸の痛みがひどくなり、救急外来を受診したものの、検査結果は異常なし。「問題ないから」と言われて家に帰されたことがあるそうです。
しかし、お話を伺うと、どうも“タバコを吸うと”という前提条件がはっきりしていますし、何度も繰り返し起こっています。これは何か異常があるに違いないと思い、さまざまな検査を受けて頂いたところ、「冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)」という病気であることが分かりました。
これは日本人に比較的多く、「突然死」の原因にもなる病気です。
治療と予防のために、お薬を毎日飲んで頂いたところ、症状は治まりました。タバコを吸うとまた痛くなることもあるようでしたが…これはご本人に注意していただくほかありません。
「胸痛(きょうつう)」とは何か?
血管と内臓による痛みは命に関わる
「胸痛(きょうつう)」。
私たち医療者には非常になじみ深い言葉ですが、一般の方にはそこまで浸透していないと思います。
そもそも胸痛とはその漢字の示す通り「胸の痛み」のことです。ある辞典には「胸部の痛みの総称」と書いてあります。
では「胸部」とはどの範囲を指すのか?「肋骨と肋骨に囲まれた空間」と考えればよいでしょう。
痛みの原因は、大きく「骨や筋肉」「神経」「血管」「内臓」などに分けられます。その中でも「血管」と「内臓」の痛みは命に関わるものです。主なものとして、血管には大動脈や肺動脈があり、内臓には心臓、肺、食道などがあります。