日本の生産性が主要先進国の中で最下位といわれて久しい。その理由はさまざま語られてきたが、日本経済の栄枯盛衰を30年にわたって分析してきた元ゴールドマン・サックス金融調査室長で、小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏は、新刊『国運の分岐点』で「中小企業が日本の生産性が低い原因」だと述べて、議論を呼んでいる。日本の高度経済成長を支えてきたと考えられてきた中小企業が、なぜ生産性が低い原因なのか。「日本人は中小企業崇拝を止めるべき」と主張するアトキンソン氏にその理由を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 林 恭子)
日本の生産性が低いのは
中小企業が多すぎるから
――中小企業が日本経済を支えてきた日本の強みだという「中小企業神話」が、日本人には当たり前のように浸透しています。しかし、それに対して「中小企業崇拝を止めるべきだ」「中小企業が日本の生産性が低い原因だ」と主張されているのはなぜですか?
今まで日本は右肩上がりで人口が増加する中で、著しい経済成長を遂げてきました。しかし、その成功に関する正しい検証、要因分析が行われてきたとはとてもいえません。
その一方で、日本経済が成長したのと同じ時に中小企業の数が急増したという2つの事実について、それぞれを検証することなく、あたかも因果関係があったように適当に事実を並べて、結論ありきで作られたストーリーがこの中小企業神話です。
日本は、1人あたりGDPが世界第28位(2018年、IMF)と、先進国の中でも生産性が低いことで知られています。これから人口減少が進む日本において生産性の向上は急務ですが、なぜ生産性が低いのかについて、日本の学者や経済評論家は要因分析ができているでしょうか。
生産性向上につながる働き方改革や女性活躍が進んでいない、それは夫が育休を取得できないからだなど論点が跳ぶケースがほとんどです。男性の育休取得が進んでいないのは事実ですが、なぜ育休が取れていないのかについては、検証されていません。いきなり、日本の生産性が低いのは農耕民族だからだ、なんていう人もいます。
では、何が生産性向上の障害になっているのか。それは、「中小企業」です。つまり、日本では中小企業が全体の99.7%を占めていることが、大きな障害になっています。だから、日本の生産性を高めるためにも中小企業崇拝は止めるべきなのです。
私は30年日本に住んでいますが、日本の学者や経済評論家の多くは、知識があっても論点や結論がうさぎみたいにぴょんぴょん跳ぶ「うさぎちゃん評論家」だと以前から感じていました。彼らが、過去に日本経済が成長した理由をきちんと検証してこなかったからこそ中小企業神話を妄信し、今の日本経済の問題点がきちんと検証ができず、日本経済は長い低迷に陥っているのではないでしょうか。