国が保有する東京地下鉄(東京メトロ)株式の売却益は、東日本大震災の復興財源に充てることが決まっているが、東京都が保有する株式の売却益約1600億円の用途は決まっていない。また都が多額の売却益を得る一方で、地下鉄延伸の事業費を江東区が負担する異例の事態も起きている。特集『メトロ上場! 鉄道「最強株」の正体』の#5では、鉄道のさらなる延伸・開業計画を予定する都の「鉄道建設とおカネ」事情にフォーカスする。(ダイヤモンド編集部 田中唯翔)
1600億円の売却益の用途は未定!
一方で配当金は用途が決まっていた
東京地下鉄(東京メトロ)の大型IPO(新規株式公開)の裏側で、巨額の売却益を得た者がいる。売り出し人の国と東京都だ。売却益は国が約1900億円、東京都が約1600億円になるとみられている。国の売却益は東日本大震災の復興財源に充てられることが決まっているが、東京都の1600億円分の売却益の用途は決まっていない。
「売却益を具体的に何に使うかは本当に未定。これからしっかり検討する」
そう話すのは東京都都市整備局で東京メトロの上場を担当していた青木真毅人担当課長だ。売却益が鉄道建設に使われるかどうかも分からないという。
しかし、東京都保有分の売却益の用途を考える足掛かりを発見した。それは、東京都が毎年東京メトロから受け取っている配当金収入である。売却益の用途は決まっていないが、東京都がこれまで東京メトロから得てきた配当金がどのように使われているのかを見れば、売却益の用途を考えるヒントになり得る。
東京都は、こうした多額の売却益を得る一方で、東京メトロ有楽町線の延伸の事業費を江東区が負担する異例の事態も起きている。
「地下鉄建設のために地元区が負担するということはちょっとあり得ない、筋が通らない」
2022年4月の江東区議会で山﨑孝明区長(当時)が述べているように、地元区が建設費を負担する事例は初である。江東区には費用負担を求めている一方で、有楽町線と同時に延伸が発表された東京メトロ南北線の建設費は、地元区に対して負担を求めていない。これはなぜか。
さらに東京都内で計画される鉄道の延伸・開業は有楽町線と南北線だけではない。東京都が主導している都心部・臨海地域地下鉄の計画などを含めれば事業費の総額は1.3兆円にも及ぶ。有楽町線延伸の際に、地元区が費用を負担したことが「きっかけ」となり、他の延伸計画でも地元区の負担が要求される可能性もある。
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