夏以降、日本では未曽有の台風や洪水の被害が続いた。海外でも大規模な森林火災が猛威を振るっている。ブラジルのアマゾン地帯の山火事は、想像を絶する範囲で今も燃え続けている。
シリコンバレーが位置する米国カリフォルニア州も例外ではない。近年、大規模な森林火災が頻発し、ワインの生産で有名なサンフランシスコ近郊のソノマ郡の森林は2週間以上燃え続け、30万ヘクタール超を焼き尽くして鎮火した。
そんな社会的損失を防ぐために、新たなテクノロジーを防災に利用する取り組みが継続的に行われてきた。今では、一昔前とは比べものにならないほど正確な災害予測ができるようになっている。また、スーパーコンピュータを使った気象予測や、詳細な地形データから計算された洪水ハザードマップは大きく進歩している。
しかし、災害を完全に予測し、被害を出さないレベルにはなっていない。川の氾濫においては、事前に氾濫までの時間や場所の可能性が計算されていても、それを災害発生時にリアルタイムで予測し、人々に対応を促すことは難しいからだ。
森林火災は出火の予想において、まだまだ技術が追い付いていない。カリフォルニアの場合は電力会社の送電線や変電器から発生した火花が木などに引火し、山火事へ発展する。しかし、その場所や時間の予測はできない。
そこで、カリフォルニアでは、風の強い時期に火災を予防するため、大規模な停電を実施した。それ自体が市民に大きな混乱をもたらし社会問題となっているが、残念ながらそれ以外に方法がない。
災害とマーケティングの関係
災害対策には大きく分けて「予防」「初期対応」「コミュニケーション」がある。予測は予防や初期対応に大いに役立つため、イノベーションは誰もが期待するところだ。川の氾濫なら、被害を最低限に抑えるために、リアルタイムで最善策を導き出し、ピンポイントの場所ごとに実行支援できるようになってほしい。森林火災でも、出火後まだ規模が小さいうちに、最適な消防手段で消し止められるようなシステムがあるといい。
それには、現地の様子をキャッチするIoT(※)や特殊カメラ、異常を認知するAI(人工知能)、そのベースとなる地理や気象の詳細情報などの既存の技術やデータを組み合わせ、統合することが鍵となる。これは、あらゆる現場のデータを吸い上げ、鳥瞰するトップダウンのアプローチだ。
しかし、技術革新によるイノベーションの中心地であるシリコンバレーでは意外に反応が鈍い。それは、初期対応の新しい仕組みづくりには、行政や大手インフラ企業のトップダウンのアプローチが必要で、協業の調整に手間と時間が著しくかかるからだ。スタートアップ企業にとっては体力消耗のリスクが高く、参入するにはハードルが高過ぎる。
※IoT:Internet of Things(モノのインターネット)。あらゆるモノに付加したセンサーからの情報がインターネットにつながり、情報ネットワークを形成する仕組み