トップ人事を巡り内紛が勃発したLIXILグループ。前経営陣の復権を求める株主提案が成立する舞台裏では、大手生命保険会社の議決権を巡る攻防があった。最も保守的とされる機関投資家に一体何が起こったのか。特集「アクティビスト日本襲来」(全12回)の最終回では、今後の企業統治や、アクティビストたちに与える影響を探る。(ダイヤモンド編集部 中村正毅)
機関投資家を突き動かした不可解なトップ人事
「会社側と株主側のどちらか一方の提案のみが可決されたら、対立がより深刻化するのではないか」
「双方の提案に賛成するというのは、投票をする意味がないことになるため、それはあり得ない」
今年6月、自社が大株主となっているある企業の株主総会を巡って、生命保険各社の中で激しい議論が続いていた。
その企業とは、LIXILグループだ。同社は昨秋、創業家出身の潮田洋一郎氏と、当時社長兼CEO(最高経営責任者)を務めていた瀬戸欣哉氏が経営方針を巡って鋭く対立。潮田氏は指名委員会を通じて瀬戸氏を事実上解任し、自らが会長兼CEOとして経営権を握るという内紛が勃発していた。
総会での議決権を持つ生保各社が、賛否の判断に頭を悩ませた理由は大きく二つある。
一つ目は、企業統治(ガバナンス)上の論点が複雑に絡み合っていたことだ。
LIXILの内紛では、トップを決める指名委員会の委員であった潮田氏が、自らを会長兼CEOに指名するようなかたちで経営権を握っている。
そうしたトップ人事における不可解な手続きによって、第三者の弁護士らによる調査が入ることになり、潮田氏は今年4月に辞意を表明。6月の株主総会には、自身を抜いたかたちで取締役候補者を立て議案を提出した。
一方でCEOを解任された瀬戸氏は、復権を狙って自身を含めたかたちで取締役候補者を立て、総会に株主提案として諮っている。
そのため、総会の議案上は潮田氏vs瀬戸氏という単純で分かりやすい対立の構図にはならなかったのだ。
しかも、会社提案の取締役候補者8人のうち社内は1人のみで、あとの7人は全て社外。対して株主提案は瀬戸氏を含めて4人が社内のため、経営陣の中立性と刷新の度合いは会社提案の方が大きかった。
ガバナンスを利かせ経営の混乱を早期に収拾するには、会社側と株主側のどちらの提案が妥当なのか。
株主の多くが頭を悩ませる中で、米ISSなどの議決権行使助言会社は、会社提案に主に賛同するよう呼び掛けた。一方で、ある信託銀行は、会社提案の取締役候補者は内紛を起こした潮田氏の意を酌んでいるとして、反対する意向を示しており、生保各社としても容易には判断できない情勢だったといえる。