日本の携帯市場はかつて競争原理が働いていた。合従連衡が進み大手3キャリアに集約する過程で、台風の目だったのがソフトバンク創業者の孫正義氏だ。特集「携帯激震! 総務省vsキャリア3社」(全5回)の第3回では、その歴史をひもとく。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
孫氏のイー・アクセス買収で
「3社寡占」が確立
総務省にとって忘れられない歴史の「汚点」がある。
2012年10月、携帯業界3位のソフトバンクが同4位のイー・アクセスの買収を決めたことである。これをきっかけに、大手3キャリアの寡占が進み、携帯電話の料金競争は停滞することになったのだ。
ソフトバンクによるイー・アクセス買収は日本の通信の歴史に残るM&A(合併・買収)だ。ソフトバンク創業者の孫正義氏、KDDIの社長だった田中孝司氏、楽天創業者の三木谷浩史氏の3人が激しい争奪戦を繰り広げた。
孫氏は、後に公表する米スプリントの買収交渉の真っ最中だったが、KDDIと楽天の動きをキャッチするや、イー・アクセスとの買収交渉に乗り出し、同社会長だった千本倖生氏の元を訪れて買収額を一発提示、争奪戦を逆転で制した。
孫氏の真骨頂を発揮した買収劇。これを苦々しく見ていたのが総務省だった。実は、このわずか3カ月前にイー・アクセスには「プラチナバンド」と呼ばれるつながりやすい周波数帯を割り当てたばかり。「国民の共有財産」である周波数帯がM&Aで売買された上、通信4社が3社に減ったことで、その後の通信料金の高止まりを招いたという競争政策の汚点となった。