経営危機に陥った東芝を救ったのはアクティビストを含む外資マネーだった。香港のアクティビスト、アーガイル・ストリート・マネジメント最高投資責任者のキン・チャン氏は、増資には参加しなかったものの東芝の株主として、他のアクティビストらと連携しながら積極的に提案を繰り返した。特集「アクティビスト日本襲来」(全12回)の#9では、容易にはうかがい知れないグローバルなファンドコミュニティーの内実をお伝えする。(ダイヤモンド編集部副編集長 布施太郎)
東芝ほど厄介な株主を抱えた日本企業はない
――経営危機に陥っていた東芝に対して、メモリー事業売却に反対するなど、3度にわたる提案を行いました。他のアクティビストは当初沈黙していましたが、なぜですか。
他のファンドも皆同じようなことを考えていたが、その考えを公にしていなかっただけだ。周りが何も言わなかったのでたき付けて、行動を引き出したかった。私の提案が全てのファンドに受け入れられたわけではないが、変化を起こさねば東芝に声が届かないと考えた。
私はただ自分の意見を述べたにすぎない。結果的にその意見が多くのファンドと同じだっただけだ。私がリードしたという認識はない。
例えば、メモリー事業の売却に反対したが、多くのファンドも同じように考えていた。今でも売却が正しかったかどうかについては疑問が残るが、売却されてしまったので仕方がない。しかも、売却額は安過ぎた。
大株主になった(有力アクティビストの)米キング・ストリート(・キャピタル・マネジメント)も最終的にはさまざまな提案を出して追随してくれ、うれしかった。だが、反感も買った。例えば、香港オアシス(・マネジメント)のセス・フィッシャー氏からは怒りの電話をもらった。彼も同じような提案を準備していたのに先を越されてしまったということなのだろう。われわれは彼が輝けるステージを盗んでしまったようだ(笑)。
――あなたのファンドは決して大きくないですよね。東芝に出資したファンドは大どころが名を連ねています。本来は出る幕ではなかったのではないでしょうか。
そこが今回のポイントだと思う。豪華メンバー全員がそろっているので、お互いに他の誰かが動くのだろうとお見合いをしていた。私は常に他のファンドに対して「われわれよりも力があるのになぜ提案しない」と問い掛け続けた。
株主名簿に米エリオット(・マネジメント)や米サード・ポイントが入っていれば、当然、他のファンドは彼らが動くものだと期待する。最終的にサード・ポイントもエリオットもキング・ストリートに頼ったのだが。
それは投資額の問題ではない。全員がかなりの資金を投資しているが、人間心理の問題だ。「当然あいつがやるだろう」「自分だけがあくせく働いて他のやつにただ乗りされるのはごめんだ」という心理が働く。その意味で、われわれが何か貢献したとすれば、他のファンドが行動せざるを得ない状況をつくった点にあるのかもしれない。
――東芝は今、外国人株主の保有率が半分を超えています。どのように運営すればいいのでしょうか。
確かに株主の約70%は外国人投資家だ。それを考えると外国人投資家は非常に強い勢力だ。車谷暢昭会長兼最高経営責任者(CEO)が多くの時間を割いて理解を得なければならない重要な投資家になっている。
東芝の再建が非常に複雑であるのは理解している。車谷さんは今、日本で一番注目されている経営者かもしれない。ただでさえ、最近のトラブルで注目を浴びたのに、その上、難しい株主を多く抱えている。日本の大手企業でこれほど厄介な株主をここまで多く抱えているところは他にはない。
しかも、エリオットやサード・ポイント、米フォートレス(・インベストメント・グループ)にシンガポール・エフィッシモ(・キャピタル・マネジメント)、どれ一つを取っても悪夢のような株主なのに、それらが全てそろっているんだ。考えられるか?