2000年代前半からアクティビストの最前線に立ち続けている男がいる。旧村上ファンドの幹部を務め、06年に村上世彰氏がニッポン放送株を巡る証券取引法違反(インサイダー取引)で逮捕された後、ファンド解散の手続きを指揮した丸木強氏だ。12年末に自らファンドを立ち上げ、運用利回り(複利)は7年間で20%近くに達している。特集「アクティビスト日本襲来」(全12回)の#10では、丸木氏の回顧と、未来への展望を伝える。(ダイヤモンド編集部副編集長 布施太郎)
昔は株主総会で「勝つ」ことが目的
今は株価が上がればいい
――丸木さんは旧村上ファンド出身という意味ではアクティビストの第1世代ですが、昔と今では何が変わりましたか。
外部環境としては、まず政府が変わった。2015年のコーポレートガバナンス・コードの導入など企業価値の向上が正面から取り上げられる政策が打ち出された。マスコミも大きく変化した。アクティビストに対してもうけ主義などの批判があったが、今は株主と向き合えという論調も増えてきている。
変わっていないのは企業経営者ではないか。外国人持ち株比率が高い企業は変わりつつあるが、取り残されている企業も多い。
――丸木さん自身は変化しましたか。
かつては株主還元の提案しか言わなかったが、今はガバナンス強化や経営方針の改善なども株主提案に盛り込むようになった。やはり、コーポレートガバナンス・コードにそうした概念が入ってきたことが大きい。去年は株主提案として、ROE(自己資本利益率)が10%未満だったら取締役のボーナスを払うなという提案もした。前はこうした主張を取り入れる発想はなかった。
かつては僕らの目的は勝つことだった。つまり、株主総会で過半数を取ること。そのために国内外の投資家にアプローチし、投資信託会社なども回った。今はそういうことをしてもしなくても、賛成する人はするし、しない人はしない。賛成するかどうかは僕が説得しにいったところで変わらない。
今は、勝つことを目的にはしていない。20%でも30%でも賛成票が取れればいい。それで経営陣が「今まで配当性向は20%とか30%でいいと思っていたけど、増配に賛成する株主が30%もいるのか。ちょっと考えなきゃいけないな」と思ってくれたらいい。会社提案に賛成している70%の人たちの半分以上は政策保有株主で、言ってみれば会社のお友達なわけだから。
村上(世彰)氏は今でも保有比率30%、40%を取りにいっている。そうすれば株主総会で勝てる。彼は今も勝つことを目的にしているのだろう。僕は勝たなくてもいい。投資先の企業価値が上がり、株価が上がることを目的にしているからだ。
――なぜそう考えるようになったんですか。