甘かった
財政基準のチェック
大いなる安定の終焉──グローバル経済の大きな流れから見れば、米国におけるリーマンショックも欧州危機も似た面がある。バブルが崩壊したのだ。これについては前回触れた。
ただ、欧州危機についてより深く見るためには、共通通貨ユーロを軸にした欧州統合のプロセスの根本的な欠陥に触れる必要がある。
1999年に欧州諸国が共通通貨ユーロの導入に踏み切ったとき、経済学者のなかには、この大実験はうまくいかないのではないかという見方をする人が少なからずいた。多くの国が参加した共通通貨をつくるためには、それなりの周到な準備が必要である。残念ながら、必要な条件を満たさないまま、欧州はユーロ導入に走ってしまった。
いま起きているユーロ危機が財政問題に端を発していることからもわかるように、財政政策の運営の健全性が共通通貨制度の維持には必須である。欧州諸国もそれをわかっているので、ユーロ参加国に財政運営の厳しい条件をつけている。
財政赤字はGDPの3%以内でなければいけないし、政府債務もGDPの60%を超えてはいけない。これがユーロ参加のための条件である。ちなみに、今の日本はこの条件を到底クリアできる状況にはない。
もし、ユーロ参加国がこの財政条件をしっかりクリアするような財政運営を行っていれば、今のような深刻な財政危機は起きなかったかもしれない。しかし、欧州諸国はユーロ導入を急ぐあまり、参加国の財政状況のチェックが非常に甘かった。
イタリアやベルギーは、ユーロ参加時でも政府債務がGDPの100%前後もあった。しかし、欧州連合(EU)の本部があるベルギーや、ユーロ参加国のなかで第3の規模であるイタリアを抜きにしたユーロの導入は考えられなかったのだろう。財政運営の問題に目をつぶって見切り発車してしまったのだ。