『外資系で自分らしく働ける人に一番大切なこと』は著者の宮原伸生さんが、日本企業を飛び出し、ベネトンスポーツ、日本コカ・コーラ、LVMH(モエヘネシー・ディアジオ)、ケロッグ、GSK(グラクソ・スミスクライン)などで、もがきながら見つけた「新しい働き方」を紹介する本です。そのエッセンスをコンパクトに紹介します。
ミッションやバリューが強いと縛られてしまうのでは?
日本人がミッションやバリューのような概念的な話が苦手なのは、それが日本の会社で重視されてこなかったということも大きいと思います。終身雇用が長く続いた日本では、いったん会社に入れば長く安定的にそこで働くことになり、時間をかけて会社に溶け込んでいけばよかった。
真面目に良い製品を作るために、日々の業務を確実にこなしていくうちに、会社の家族的な雰囲気にもなじんでくる。壁に張り出された社是や社訓はあっても、概念的な何かで組織をまとめていく必要はなかったのです。
ところが雇用環境が変わり、「どうしてこの会社に勤めているのか」が問われるようになりました。自由恋愛のように自分で選んだ会社なのだから、自分自身のモチベーション・エンジンは、自分で作らないといけない。上司から言われなくても、自ら進んでミッションとバリューを理解し、行動して結果を出すことが大切になってきます。言ってみれば、一人ひとりのリーダーシップが重要になるのです。
グローバル企業は、人のモチベーションが会社の大きな成功要因の1つだと認識しています。商品やテクノロジーは今、国や企業間でどんどんフラット化しています。他社との競争に勝つには、戦略を実行する社員のモチベーションが大きな意味を持ってくるのです。
一方、グローバル企業で働く社員の意識もはっきりしています。ほかの外資からマネジャークラスを中途採用する際に、「ミッションやバリューがはっきりしていない会社は選ばない」と言われることが少なくありませんでした。
おそらく、グローバル企業でミッション、バリューに則って仕事をすることが身についているのだと思います。だから、それがあいまいだと「気持ちが悪く」なるのです。
グローバル企業でよく使われる言葉に、“Trust Deficit”というのがあります。直訳すれば「信頼の欠乏」です。消費者は、もはや簡単に企業を信じてくれない。社員も簡単には会社を信じなくなっている。信頼がとても稀少な資源になっている、ということです。
だから、社員の信頼を築き上げていくためにも、ミッションやバリューが大きな意味を持ちます。社会、世の中に何をもたらす会社なのかを明確に打ち出しているからです。
今は優秀な人材を企業間で取り合う時代です。優秀な人材を獲得できるかどうかが、ビジネスパフォーマンスに大きく影響してきます。ミッションとバリューが、そのまま業績にも直結するのです。
ミッションやバリューがあると、それに縛られるのではないかと考える人もいますが、実は逆です。ミッションやバリューがはっきりしていると、そこからずれなければ自由に考えて行動できます。そういう選択肢の広がりにつながる。むしろ、ミッションやバリューがあるから仕事がしやすくなるのです。
日本には昔から「言霊」という言葉があるように、言葉を大切にする、豊かな言葉の文化がありました。和歌や俳句の世界もそうです。しかし、ビジネスにおいてはあまり言葉を大事にしているとは思えません。言葉に徹底的にこだわっているのは、むしろ外資のほうです。
言葉の持つ強さ、影響力の大きさをよくわかっている。それゆえ、ビジネスにおける概念やフレームワークはそのほとんどが欧米で生まれているのです。