『外資系で自分らしく働ける人に一番大切なこと』は著者の宮原伸生さんが、日本企業を飛び出し、ベネトンスポーツ、日本コカ・コーラ、LVMH(モエヘネシー・ディアジオ)、ケロッグ、GSK(グラクソ・スミスクライン)などで、もがきながら見つけた「新しい働き方」を紹介する本です。そのエッセンスをコンパクトに紹介します。

外資系で文学・哲学出身のCEOが増えてきた深い理由Photo: Adobe Stock

外資のミッションやバリューの表現がどんどんソフトになっている

外資は変革のスピードや変化が激しいといっても、ミッションやバリューの中身自体はそう変わるものではありません。が、組織としての受け止め方や発信の仕方、伝え方は、時代や環境に合わせてかなり変わります。実際、外資でもこの10年間で、ミッションやバリューの表現の仕方が大きく変わってきました。

よりソフトになり、よりエンゲージングするようになった印象です。また、ミッションやバリューについて経営陣が延々と議論をします。最近ではビジネス用語になっている、「マントラ」という行為です。リーダーがミッションやバリューを呪文のように、何百回、何千回と口にすることを言います。まさにお寺で僧侶が、真言を無心に唱えているイメージです。

不思議なもので、そうやって何百回も唱えたり、聞いたりしていると、しっかりと頭の中に染み付いてしまうのです。だから、伝道師としての力もついてきて、組織にその考えが広まっていくわけです。

このところグローバル企業には、経済分野出身ではないCEOが次々と出てきています。哲学専攻のCEOが増えてきたという記事もありました。

私が強く影響を受けたビジネスパーソンの一人、現在のGSKのCEOであるエマ・ウォルムズリーは文学部出身です。数字やサイエンスに対してもこだわりを持っていましたが、何より言葉や表現に対するこだわりが強かったことはとても印象的でした。

実際、投資家のレポートに、「GSKのエマは文学部出身で、マントラを駆使して組織を動かしている」という記述があったことを記憶しています。文学部出身であることがポジティブに見られているわけです。文学や哲学が、今や経営の世界でも重要になってきているということです。

また、最近のグローバル企業では、言葉遣いにも微妙な変化が見られます。Mission(使命)の代わりにPurpose(目的)という言葉をよく見かけるようになりました。また、Code of Conduct(行動規範)をExpectation(期待していること)という言葉に置き換えている会社もあります。

微妙なニュアンスの違いなのですが、ミレニアル世代を意識して、会社が押し付けるのではなく、よりエンゲージングする(巻き込む)言葉へと進化しているのだと思います。外資はこんなふうにして、組織を動かすOSをアップデートしているのです。

これが何を意味しているのかというと、実は組織のみならず個人も、自分を動かすOSをちゃんとアップデートしていかなければいけないということです。

自分を仕事に向けて鼓舞するモチベーション・エンジンをどう作っていくか。そのためには、自分はどこに行こうとしているのか、今は何をしようとしていて、次に何をしたいのか、といったことをしっかり考え、自分を納得させなければなりません。

いわば個人のミッションやバリューのようなもの、精神的な支柱が必要になってくるのです。会社のミッションやバリューに共感するとは、それと連動した自分のミッションやバリューがきちんとあるということです。