何を受け継ぎ、何を捨てるのか

 変革に着手するに当たって、最も初期の段階で留意すべきは、徹底的に「素」の姿勢を貫くことです。自分が考えている方針を全て伝える。隠しごとは一切しない。うそは絶対につかない──。そんな姿勢です。その姿勢を明確にするために、旧経営者や新しいスタッフたちと何度も何度も話し合いを重ね、必要があれば手紙も書く。その上で「自分を信じてほしい」とお願いする。そんな行動が必要です。

 次に行うべきことは、「何を守り、何を変えるか」を見極めることです。ここでも重要なのは対話です。会社を構成する要素には、会社のカルチャーのような不可視的なものと、キャッシュカウ、つまり収益の柱となる事業などの可視的なものがあります。ビジネスを継続させていくためにはそのいずれもが必要です。しかし、そのいずれも時代とともに変わっていくものです。カルチャーやキャッシュカウのどの部分を継承し、どの部分を変えていくかを対話の中で探っていかなければなりません。

 もっとも私の経験では、継承すべきことは意外に少ないものです。旧経営者は一般に、できるだけ多くのことが継承されることを望みます。それが、自分が経営者であった、いわば証しだからです。プロ経営者はその思いを受け止めつつも、継承する必要がないことを冷静に精査しなければいけません。それができるのは、プロ経営者だけです。何を受け継ぎ、何を捨てるのか。その判断自体を任せてもらうことが必要であると私は考えています。

池田 純
早大卒業後、住友商事、博報堂勤務などを経て2007年に株式会社ディー・エヌ・エーに参画。2011年横浜DeNAベイスターズの初代社長に就任。2016年まで5年間社長をつとめ、コミュニティボール化構想、横浜スタジアムのTOBの成立をはじめさまざまな改革を主導し、球団は5年間で単体での売上が52億円から110億円へ倍増し黒字化を実現した。退任後はスポーツ庁参与、明治大学学長特任補佐、日本ラグビーフットボール協会特任理事などを務め、2019年3月にさいたま市と連携してスポーツ政策を推進する一般社団法人さいたまスポーツコミッションの会長に就任した。また、現在有限会社プラスJ(https://plus-j.jp/)。では、世界各国130以上のスタジアム・アリーナを視察してきた経験をもとに「スタジアム・アリーナミシュラン」として、独自の視点で評価・解説を行っている 著書に『常識の超え方』『最強のスポーツビジネス』(編著)など。