金融事業の大幅減益ショックに備えて、合併する農協が増えている。だが、農協が合併した後、リストラにかまけて本業の農業関連事業をなおざりにし、経営基盤を弱体化させた例は枚挙にいとまがない。特集『儲かる農業 攻める企業』(全17回)の#9では、合併失敗の典型として、青森県のJA青森の衰退を、過去20年の財務データを基に分析する。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
職員と支店の削減だけ実現
農業振興の約束は空手形に
4月1日、二つの大型合併農協が誕生した。福井県のJA福井県(10JAが統合)と岡山県のJA晴れの国岡山(8JAが統合)だ。いずれもほぼ県全域を管内に持つ、組合員数10万人超の巨大農協だ。
両農協に続けとばかりに、全国の多くの農協が合併に向けた協議を進めている。マイナス金利政策の影響で、「ドル箱」だった金融事業(銀行業務の信用事業と保険業務の共済事業)が大幅減益になることが判明し、農協は競い合うように合併に突き進んでいるのだ。
しかし、合併農協の未来は決して明るくない。合併の目的と成長戦略を定めた上で農協が統合するなら農家のためになるかもしれない。だが実際には、組合員数や貯金額といった「規模」を追うだけの戦略なき合併が多いからだ。
それは、ダイヤモンド編集部が行った調査でも裏付けられている。「担い手農家アンケート」で地元農協への評価を基にJA支持率ランキングを作成したところ、県域で合併した巨大農協の支持率が低い傾向にあることが明らかになったのだ。
ランキング対象の全86JA中、“最上位”のJA香川県でも55位、JAおおいたが59位、JA山口県が60位、JAしまねが63位、JAさがが65位と下位に沈んでいる(詳細は特集『農業激変 JA大淘汰』の#6『農家1600人が選ぶ「JA支持率ランキング」2~4位が石川県、1位は?』参照)。
金融事業が縮小する中、農協が生き残るためには、本業である農業関連事業の収益を改善するしかない。
しかし、実際には、合併後の農業関連事業の成長戦略を描くことなく、支店の統廃合や職員数の削減といったリストラを進めるばかりで、農家の「農協離れ」を招くケースが多発している。
その代表例として、2008年に青森県の4JAが統合して誕生したJA青森の衰退を、過去20年の財務データから徹底解剖してみよう。