国際政治アナリストの間で、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的感染拡大)への対応を米トランプ政権が誤ると、米国にとっての「スエズ危機」が現実化する恐れがある、との懸念が強まっている。
1956~57年に起きたスエズ運河を巡る国際紛争において、英国とフランスの国際政治力が実は弱体化していることがあらわとなってしまった。グローバルな覇権は米国に移っていると世界が認識し始めた瞬間だった。
今回の新型コロナウイルスを当初甘く見ていたトランプ大統領は、失地回復の思惑もあってポピュリストとしての本領を発揮。同ウイルスを「チャイナウイルス」と連呼して支持率を急上昇させた。
それに拍手喝采する米国民の心情は理解できなくもないが、今このタイミングで国家間の対立をあおることは非常に危険といえる。同ウイルスは人類全体にとっての脅威だからだ。本来はデータを最も豊富に持っている中国も取り込んで、世界の医者・科学者たちは有効な治療薬やワクチンを急いで共同研究する必要がある。
しかしトランプ政権は協調路線とは真逆に、ワクチン開発に取り組んでいるドイツ企業を強引に買収しようとした。これにドイツ政府は激しく怒り、欧州連合(EU)も米政府に対する不信感を強めている。
また大統領補佐官(通商担当)のピーター・ナバロ氏は、米企業はグローバル・サプライチェーンを断ち切って米国に戻ってくるべきだとの持論をここぞとばかりに強く訴えている。そうした方向性は国際政治における同国のプレゼンスを低下させていく。