PCR検査の「意味」は
検査数によって変わる

 この観点から、日本のPCR検査結果により陽性と判定された「感染者数」は、判断や意思決定の根拠にするための「エビデンス」にはなっていませんでした。なぜか。「検査数」や「陽性率」と同時に提示されていなかったためです。

 極端な話、1万人にPCR検査を実施した結果、感染判明者数が100人となれば陽性率は1%です。しかし、200人にPCR検査をした結果、感染判明者数が100人だった場合の陽性率は50%になります。加えて、先述の通り30%ほどは陽性でも陰性と出てしまう検査であることを考えれば、調べた人の8割方は陽性である可能性もあることになります。また、そもそも200人しか調べていなければ、それ以上感染者数は多くなりようがありません。

 PCR検査数を同時に示されないことで、一般の人からしてもここが不透明であり、一体「感染者数」をどのような意味として受け取ればよいのか判断することができず、「正しく怖れる」ことができずにいたという側面もあったように思います。

 では、東京都の「新型コロナウイルス感染症サイト」を例に、意思決定の根拠として使えるエビデンスにするためにはどういった条件を満たす必要があるのかを見ていきましょう。

 上記のような指摘が多数あったことから、東京都は5月8日から感染者数とともに、過去1週間の陽性率も発表するようになりました(図1)。

 その結果、東京都における「陽性率」は、5月8日の6.2%からその後も12日まで5%台と、低い水準で推移していることがわかります。また(図1)上部の(注)にあるように、当初よりも詳しく情報のソースを明示するなど、工夫がされています。これは非常に大きな進歩といってよい改善です(しかし、まだ意思決定の根拠となるエビデンスとして活用するためには十分ではないのですが、それについては後述します)。

 また5月13日には、感染症公表数を修正し、「患者発生の動向をより正確に分析するため、各保健所から報告があった患者の発生情報を、PCR検査により陽性であることを医師が確認した日別(確定日別)に整理したもの」である「PCR検査陽性者の発生動向(確定日別による陽性者数の推移)」を示すなど、 さまざまな改善がされました(図2)。

 これまで検査した日と、感染者が報告された日がずれていたこと、そして速報値より公表される数値の精度が上がったことを考えると大きな進歩です。

エビデンスの有効性・限界を
吟味することの意義

 この図2の青囲み部分を見ると、陽性者の発生件数も5/8(20人)⇒5/9(32人)⇒5/10(25人)⇒5/11(10人)⇒5/12(7人)と推移しており、また図1の青囲み部分を見ると、陽性率も5/8(5.8%)⇒ 5/9(5.4%)⇒ 5/10(4.9%)⇒ 5/11(4.9%)⇒ 5/12(4.5%)と推移しており、感染は抑えられていることがわかります。

 しかしながら、図1の赤囲み部分と図2の青囲み部分を比べてみると、同日に相異なる陽性判明者数が表示されていることがわかります。たとえば図2で5月12日の新規陽性者数は7人ですが、図1の表では同日の陽性者数は33人と、4倍以上にもなっています。これはどういうことでしょうか?