現在の多くの国々の紙幣は、実際は何の裏付けもないただの紙切れだ。その信認は「共同幻想」により保たれている。「幻想」の維持可能性は、最終的には政府の徴税力に懸かってくるだろう。
発足時から深刻な財政難にあった明治新政府は、財政赤字の穴埋めや産業振興のために「太政官札」という政府紙幣を大規模に発行した。しかし新政府の徴税力は全国のほんの一部にしか及んでいなかった。そのため、商人らは同紙幣を嫌い、その価値は暴落。両替商での小判との交換時は額面の2割の価値しかなかった(『お金から見た幕末維新』渡辺房男)。「ベルリンの壁」崩壊後の1990年代には旧共産圏の多くの国でハイパーインフレが発生した。新体制に移行したものの徴税システムが未確立で、中央銀行が国債を買って財政赤字を穴埋めしたために通貨の信認が一挙に崩壊した。
翻って現在の日本政府は、新型コロナウイルス危機下で財政赤字が拡大している。今は表面的には国債の金利が安定しており、当面問題ないように見える。しかし政府債務が増大していくと、どこかで臨界点に達する恐れはある。
第2次補正予算が閣議決定された結果、2020年度の一般会計の歳出規模は合計160.3兆円になった。米投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻した後の09年度に歳出が100兆円台に乗った際は非常事態という認識だった。
しかし、一度増やした予算はなかなか減らせない。11年に東日本大震災が起きたこともあり、100兆円前後の歳出がその後常態化した。