最初は、これらの事情をご存じないのだろうと思った。しかし、その人は名刺を差し出し、「毛が混じっていまして、申し訳ございませんでした」とおっしゃった。名刺にはマネジャーと記されている。どうやら事情を知ったマネジャーがご丁寧に挨拶にいらしてくださったようだ。

 だとすれば、「お食事を楽しんでいただけましたでしょうか」という質問は、そのような意図はなかったとしても、顧客をさらに刺激しかねない意味になってしまうのではないか。

マネジャーが対応を誤った3つの理由

 このマネジャーは、意図して傷に塩を塗るような発言をしたとは思えない。考えられる理由は、次の3つだ。

1. とっさの場面で、マニュアル通りのフレーズが出てしまった

 このレストランは、スタッフ教育を徹底しているように思える。何度か電話したが、そのたびに、「何かございましたでしょうか」という決まったフレーズで電話に出てくださる。きっと固有のマニュアルがあって、その話法を徹底しているのだろう。

 マニュアルに則って話法を繰り出すこと自体は間違いではない。しかし、マニュアルは万能ではないし、その場その場の状況に応じて最も適した対応の仕方がある。この場面でも、とっさに臨機応変な対応ができず、マニュアル通りの「お食事を楽しんでいただけましたでしょうか」というフレーズが出てしまったのではないか。

2. まず反応を探ってから、顧客の心情にあったフレーズを繰り出そうと思った

 顧客が苦手な食材のことや人の毛が混入していたことなどを食後の段階でも気にしているかいないのか、それを知った上で対応しようとした可能性もある。

 しかし、だとすれば、本人はそんなつもりはなかったかもしれないが、表情や声のトーンなどの表現は適切ではなかったように思う。少なくとも相手に満面の笑みを浮かべて、声高らかに語っていると思われるような表現ではなく、ニュートラルなトーンで聞いた方が、顧客を刺激するリスクは少なかったに違いない。

3. 問題を意識はしていたが、行動が伴わなかった

 このマネジャーの方からは、颯爽として快活な印象を受けた。きっと日頃からそのような立ち居振る舞いをされているのだろう。部下から事情を聴いたことで、今回の件を問題だと意識することはできていたのかもしれない。しかし、その意識が行動に結び付かずに、普段通りの明るい表現が繰り出されてしまったということも想像できる。