
海運各社が過去最高水準の収益をたたき出す中、海上職を志望する学生数が増加している。船上での仕事といえば、長期乗船、労働環境など、過酷なイメージが付きまとうが、いったい彼らはどのような業務を行い、どのようなキャリアを描くのか。特集『海運激変! トランプ関税下の暗夜航路』の#8では、華やかな好決算の裏に潜む、知られざる「海上職」の実態に迫る。(ダイヤモンド編集部 田中唯翔)
海運バブルで人気増!
知られざる海上職の世界
「海上職になれる海洋科学専攻科への進学希望者が、ここ数年増加傾向にある」
そう話すのは、東京海洋大学の鈴木光俊特任教授だ。実はコロナ禍以降、同大学では、海運会社の海上職に就くために必要な3級海技士(航海)の資格を取ることができる海洋科学専攻科の志望者数が増加している。
定員割れとなることが多かった海洋科学専攻科だが、2022年度には定員40人を超える数の志願者が受験し、倍率が1倍を超えた。さらに同専攻科の学生にアンケートを取ると、学生生活を延長するために進学してきた学生の数が減少し、海運会社へ就職する意思を持って進学する学生がほぼ全員になったという。
コロナ禍の“海運バブル”で海運会社の業績が好調だったことや、海上職の働き方そのものが大きく変化してきたことも志望者の増加の背景にある。
また業界の構造変化に加え、若者の職業観も変化した。「海上職は通勤電車に乗る必要がなく、通勤に時間がほとんどかからない」(鈴木氏)ことも学生から魅力的に映る理由だ。
待遇面でも注目するポイントがある。そもそも高給で知られる海運会社だが、実は陸上職よりもさらに海上職の方が待遇は良い。長期乗船に対するハードルはあるものの、その分の対価はしっかりと保証されている。待遇や安定性の面で「選ばれる職業」に変化しつつあるのが、今の海上職だ。
しかも海運会社に海上職として入社するために、必ずしも東京海洋大学などの商船系の大学で専門教育を受ける必要はない。
日本郵船、商船三井、川崎汽船は、海上職を自社で育成する採用枠を設けており、大学で海技士になる訓練を積んでいない学生にも門戸を広く開いている。
例えば日本郵船の直近の採用実績によれば、商船系の大学卒業者とそれ以外の大学卒業者の比率がほぼ同じだ。学歴や出自に関係なく、プロの海上職としてのキャリアを目指せるチャンスは大きい。
日本の輸出入の9割以上を担い、サプライチェーンの最前線で働く船舶の乗組員たち。彼ら・彼女らは、海上でどのように働き、やりがいや課題を感じているのか。そして、海上職のキャリアに待っている将来とは。
次ページでは、現場で働く若手航海士のリアルな声と共に、知られざる「海の現場」に迫る。