●よい学習習慣を促す
企業はさまざまな習熟度の社員を支援するために、専門の語学研修サービス会社と契約する必要がある。スキル向上のための最適な時間配分から、英語でeメールを書く方法に至るまで、社員の学習を指導するために、研修会社はその企業の事情に通じていなければならない。
楽天では、語学の習得は日常業務の一部と見なし、就業日にそれに専念する時間を社員に与えている。毎朝、社員食堂で教科書をめくったり、オンライン研修に取り組んだりする社員の姿が見られる。
社員の「賛同」を強化する
賛同へと移行させるためには、また別の方策が必要である。ただし、個別ではうまくいかない。賛同と能力の確信とは切っても切れない関係にある。人々により自信を持たせる戦略を挙げてみよう。
●何度もコミュニケーションを図る
CEO、経営幹部、マネジャーがたえずコミュニケーションを図ることはとても重要である。リーダーたちは会社のミッションと戦略を達成するうえでグローバル化の重要性を強調し、言語がそれをどのように支えるかを示さなければならない。
楽天の三木谷は、英語の公用語化の重要性を組織全体に執拗なまでに伝えた。たとえば、毎週120人前後のマネジャーが事業報告書を提出するが、彼は1つひとつにコメントをつけて返し、マネジャーが語学力を高めるように後押しした。
楽天がこの枠組みに基づいて公用語化を実行する前と後に、私は社員に対して調査を実施した。その結果を見ると、三木谷が社員に「イングリッシュナイゼーションにどこまでもこだわって注力する」ことを示した後、賛同する人が劇的に高まっていた。調査対象者の大多数が、この方針は「必要な」動きだったと答えた。
●社内でマーケティング活動をする
言語の切り替えは、企業におけるほとんどの変革の努力をはるかに上回る複雑性を含んだ数年がかりのプロセスであるため、長期にわたって社員に賛同し続けてもらうことが欠かせない。
楽天では現在、英語のイントラネットで語学力を高めるためのベスト・プラクティスを強調しながら、社員の成功談を定期的に取り上げている。全社会議も毎月開いて、英語の公用語化の方針について話し合っている。
●グローバルという認識を持たせる
マネジャーは社員を促し、ローカルではなくグローバルの社員であるという自己認識を持たせるべきである。当然ながら、国際的な環境に接する機会が限られている場合、グローバルという自己認識を培うことは難しい。
楽天は全社的なソーシャル・ネットワークを構築し、国を超えた交流を促すことで、この課題に取り組んだ。現在、自社のソーシャル・ネットワーキング・サイトを使って、社員は世界各国の同僚と交流し関わりを持っている。
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英語の公用語化の方針を決定しただけでは、リーダーたちが直面するグローバル・コミュニケーションの課題は解決しない。ビジネス言語として英語を用いることにより、社員のやる気が損なわれたり、ネイティブ・スピーカーとそれ以外の社員との間に不健全な垣根が生まれ、チーム全体の生産性を低下させたりする可能性がある。
リーダーは社員が比較的気楽に英語の公用語化の方針を受け入れられる環境を整備することにより、このような落とし穴に陥ることを避け、その影響を緩和しなければならない。このようなやり方で、企業はコミュニケーションとコラボレーションを改善することができる。
単一言語にする方針を強制することについて、他社のCEOに対するアドバイスがあるかと尋ねると、三木谷は規律の重要性を強調した。CEOはみずからロール・モデルになる必要がある。本人がこのプログラムにしっかり取り組まないなら、ほかのだれも従わないだろう。三木谷は日本人の上級幹部との1対1の業績評価も英語を用いる。「少しでも譲ったら、何もかも譲ることになります」と、彼は語る。
三木谷は抵抗を恐れていない。彼は社員の抵抗を解消することは可能であり、最終的に社員が能力の確信と賛同の面で大きく変化していくことを信じている。私も同じである。
グローバル言語に変更するためには根気も時間も必要だが、競合他社の上を行きたいのなら、もはや選択の余地はない。