公用語を定着させるための枠組みとガイドライン
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主要なビジネス言語を切り換えるのは容易なことではない。私は研究のなかで、どの程度の準備ができているかを評価する枠組みと、実施に当たってのガイドラインを開発した(囲み「公用語化を実施する際のコツ」を参照)。
公用語の採用がうまくいくかどうかは2つの重要な要素、すなわち社員の「賛同」と「能力の確信」にかかっている。賛同とは、単一言語にすることが自分のためにも、組織のためにもなることをどの程度信じられるかである。能力の確信とは、自分は語学力を合格レベルにまで高められるという自信をどの程度持っているかである。
図表2「社員の反応は4タイプに分けられる」に示したように、この2つの軸を組み合わせると、言語の変更に対する反応は4つに分かれる。
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理想的なのは、社員がこの動きに奮い立ち、自分は変更できるという自信を持った「やる気満々」の区分に入ることである。彼らは楽観的で、困難に立ち向かっていく可能性が高い。しかし間違いなく、「逃げ腰」の社員も出てくるだろう。彼らは変更をよい考えだとは思わず、自分がそのなかに入れるとも考えていない。
現実には、賛同の気持ちがなければ、社員はわざわざ言語能力を高めようとはしない。一方、自分の能力を確信していなければ、希望を失うことになる。マネジャーが人々の進展を支えるために役立つガイドラインを私は開発した。楽天の三木谷はこうした枠組みの一種を実践して成功している。
リーダーやマネジャーが手を貸せば、思っているよりも簡単に、社員はあるタイプから別のタイプへと移行する。この移行に役立つ、かなり単純な戦略がある。それは通常、精神面の大きな後押しと、実践的なトレーニングとを組み合わせることである。
たとえば、社員を「わだかまり」から「やる気満々」へと変えるためには、マネジャーはたえず励まし、語学力を伸ばすためのさまざまな機会を与えなければならない。「冷淡」から「やる気満々」へと変えるためには、積極姿勢を高める努力が必要である。社員が変化のために力を入れたと感じれば、それに伴ってスキルも向上する。
「能力への確信」を高める
自分には英語力を向上させる力があると人々に信じさせるために、マネジャーは次の4つの方法を使うことができる。
●言語経験を深めるチャンスを与える
研修や仕事、あるいは海外生活などで言語経験を積むことによって、人々はこの課題で成功するのに必要な自信を持つようになる傾向がある。過去の経験は変えられないが、海外語学研修やジョブ・ローテーションなどの機会を与えることで、新たな扉が開かれ、社員はスキルを高めることができる。
楽天は、上級幹部をイギリスやアメリカなどの英語圏に派遣して、英語漬けにする研修を受けさせている。社員向けにフィリピンで数週間の語学研修も用意している。7100人の日本人社員を対象に拡大するのは容易ではないものの、こうしたプログラムによって、個人に実用的な英語力を身につけさせるのに成功している。楽天は国外で開かれる技術関連の会議に1000人余りのエンジニアを出席させることも計画している。
●前向きな態度を育む
前向きな態度は周囲に広がっていく。身近にいる同僚、マネジャー、友人などが態度をすっかり改めてよい経験をしたところを目の当たりにすれば、自分の能力への自信も高まる。残念ながら、逆も真なりである。マネジャーは自分も新しいことに手をつけ、間違いを犯し、その間違いから学ぶところを見せることによって、リスクを恐れない行動の模範を示すことができる。
三木谷は中間管理者層に個人的な関心を集中させた。なぜなら彼らは全体で数千人の社員に影響を与えられるからである。三木谷は語学力を常に高めるように励ますだけでなく、必要であればみずから英語を教えることさえ買って出た(ただし、その申し出を受けた社員はいなかった)。また、部下が英語力をつける努力を支えるように、マネジャーたちを促している。
●言葉で説得する
「君にはできる」「あなたを信じている」といったちょっとした言葉をかけて、マネジャーや幹部が社員を励まし前向きな力を与えることが、大きな違いとなる。英語の公用語化によって離職率が高まるのを防ぐために、楽天のマネジャーたちは引き止めたい人材を特定し、特別なプログラムを作成する一方で、その間ずっと彼らを励まし続けた。
みんなが英語力の目標を達成する助けになるなら、できることは何でもすると、三木谷は繰り返し全社員に保証した。彼は、だれでも努力すればビジネスの言語を十分に学ぶことができると確信しており、英語のみとする方針のせいでだれにも会社を辞めてほしくないと思っていることをはっきりと伝えた。