何らかの方法論をとり入れると、自分たちのチームが急に権威づけされたような気分になる。多くの人によって検証された方法で進めている「安心感」も得られる。何もない中で進めていくよりも、ずっと成功率が高まるように思える。

 だが一方で、このやり方だと個の可能性は型にはめられ、制限されてしまう。また、無我夢中でよいものを作ろうとしている人が、「すでに確立された方法論があるのに、それを使わずに自分の直感だけを信じる非科学的な人」のように見えてしまう。

ベンチャーも大企業も、方法論を濫用してはいけない

 その典型の一つとして、大企業からベンチャー企業に転職してきた人が次のように言っているのを聞いたことはないだろうか?

「当社はこれまで何もかもが整備されていない中で仕事をしてきたようです。今後、私が中心になって、大企業と同様の各種制度や規定を導入していきます。これで当社にも秩序がもたらされ、一流の会社へとステージアップできます」

 そして身の丈に合わない過剰な制度を導入して生産性を低下させるのだ。逆のパターンもある。ベンチャー企業から大企業に転職してきた人がこんなふうに言うケースだ。

「当社はずいぶん古いやり方をしているようです。ベンチャーを中心とした先端IT企業でいまだにこんなやり方をしている会社はありません。私が関わるプロジェクトでは最先端の方法を広げていきます」

 すると、大企業の中で事故を起こしたり、関係部署の賛同が得られずに孤立したりする。前職のやり方を機械的に適用しようとして失敗しており、方法論濫用の典型と言える。

 創造力を発揮し、新規事業やプロジェクトを成功させるのに最も重要なのは、知識や方法論で武装することではない。チームメンバーが自分の頭で考え、同じ方向を向いて進んでいくことだ。