スマホ、ネット、SNS……気が散るものだらけの世界で「本当にやりたいこと」を実現するには? タスクからタスクへと次々と飛び回っては結局何もできない毎日をやめて、「一度に1つの作業」を徹底する「一点集中」の世界へ。18言語で話題の世界的ロングセラーの新装版『一点集中術――限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』より、特別に一部を紹介する。

仕事ができない人ほどついやってしまう残念な「朝イチの行動」ワースト1Photo: Adobe Stock

「午前中」に何を終わらせるべきか?

 私はこれまでさまざまな職業の人たちに、「午前中に片づけてしまいたい仕事にはどんなものがありますか?」という質問をしてきた。

 そこで得た回答をリストにまとめ、職業による特徴を一般化し、午前中の仕事の進め方を2つのパターンに分けた。

 主人公は仮にデイヴとしよう。デイヴは午前中に次の仕事をすませたいと考えている

・内容の最終チェックをして、クライアントに提案書を送る。
・社内のスタッフミーティングに出席する。
・直属の部下の勤務評定をする。
・電話会議に参加する。
・CIO(最高情報責任者)に会ってもらうアポをとる。
・200通以上の受信メールに必要があれば返信し、不要なものは削除する。
・転職希望者への推薦状を書く。

 このほかにも、重要な顧客へのプレゼンを午前中に終える予定の妻と、オフィス近辺のレストランで12時15分からランチをとる約束をしている。

「仕事ができない人」の毎朝の行動パターン
━━朝イチはゆったり親睦を深める

 デイヴは出社すると、まっさきに食堂に向かい、コーヒーをカップについだ。

 食堂にはリサとテッドがいて、昨夜の親睦会について15分ほど話を聞かされた。雑談中、かれらは何度か笑い声をあげた。こうして同僚と親睦を深めて1日を始めるのはいいものだと、デイヴは自分に言い聞かせた。それに、無愛想なやつだと思われたくない。

 ようやくデスクに到着すると、メモが置かれていた。

 きのう退社したあと、経理部の新マネジャーが伝言を残していったのだ。どうやらアップグレードした給与計算システムにデータを入力する必要があるらしい。

 そこで、彼はしぶしぶ経理部に向かって歩きだす。彼は毎朝、こうした「雑務」から仕事を始める。用事は忘れないうちにすませてしまうにかぎる、と考えているのだ。

 オフィスに戻ると、書類の束をもった部下のネルソンが帰りを待ちかまえていた。

 ネルソンは「マーケティングチームが無能きわまりないんですよ」と痛烈な非難を始め、その証拠として宣伝用チラシを振りかざす。

 デイヴはその話をいいかげんに聞きながら、メールの受信箱をクリックし、即座に削除できるものをチェックしていく。もちろん、上司として部下の支援に力を惜しみたくはないが、同時に自分の作業を進めないと仕事が片づかない

 ちょうどそのとき、ベティがドアのところにさっと顔をだし、「スタッフミーティングが始まります」と告げた。デイヴ以外は全員、すでに会議室に集まっているという。

 デイヴは「すまない、失礼するよ」と慌ててネルソンに言い、タブレットをひっつかみ、ベティのあとを追い、ドアの外にでた。これで、少なくともネルソンからは逃れられたというわけだ。

 デイヴはスタッフミーティングを毛嫌いしている。だからミーティングのあいだはメモをとるようなふりをして、大半の時間、テーブルを挟んで正面に座っているテッドとメッセージのやりとりをしている

 と同時に、増えるいっぽうのメールの山を減らすべく、数通のメールに返信をする。

 しばらくすると、上司のグレースから意見を求められたが、何の意見も述べられない。そもそも、何が話題になっているのかさえわからないのだ。

 そこで彼は「ここのところ年齢のせいか耳が遠くなってきたので、よく聞こえませんでした」と、その場をとりつくろった。ほどなく、ミーティングはようやく終了した。

 1日は猛スピードですぎていく。

 直属の部下のカリッサには「申し訳ないが勤務評定はまた延期させてくれ」とメッセージを送る。

 そして正午までに提出しなければならない重要な提案書に急いで目を通しはじめる。やがて電話会議が始まるが、デイヴはまだ提案書にこっそり目を走らせている――やむをえない、そうしないと間にあわないのだ。

 そして、ついに送信ボタンを押し、提案書を送信するが、しばらくすると、いくつかのデータに不備があったことを思いだし、あわてて「午後になったらフォローアップのメールを送る」「データにあやまりがあれば修正する」とメモをとる。

 そして、おそろしく長くなった「することリスト」のいちばん上に、その内容をつけくわえる

 そのあと、デイヴは階段を駆けあがる。今週、CIOと打ち合わせをするアポをとるには、CIOのアシスタントとじかに交渉するほうが得策だと考えたからだ。ところが、当のアシスタントはミーティングに出席中だという。そこで彼はミーティングが終わるまで待つことにする。

 そのとき、ふいに、転職希望者に推薦状を書いていなかったことを思いだす。結局、妻とのランチの約束時刻に15分遅刻し、午前中、思うように仕事ができなかったことを腹立たしく思いながら食事を始める。

「仕事ができる人」の毎朝の行動パターン
━━朝イチは、その日の予定を立てる

 午前中、スケジュールがぎっしり詰まっていることを、デイヴはよく自覚している。

 そこでいつもより20分早く出社し、まだひとけのない給湯室でコーヒーをカップにそそぎ、オフィスに入る。

 そして、午前中に片づけるべき仕事のリストに5分間目を通し、不要と思われる項目を消去し、重要と思われる項目にマーカーを引く

 次に、重要な仕事にあてる時間を捻出する方法を思案する。

 そして上司のグレースに「重要な仕事を正午までに仕上げなければならないため、定例のスタッフミーティングには前半だけの出席とさせていただけないでしょうか」とメッセージを送る。ただしそのあいだはミーティングにしっかりと集中するということも説明する。

 それから転職希望者への推薦状をすばやく作成し、メールで送信する。

 そのあとの30分は、クライアントへの提案書の見なおしにあてる。

 パソコンとスマホの通知をオフにし、静かな環境で、注意深く提案書を読み直し、間違いがあれば訂正する。そして自信をもってクライアントに提案書を送信する。

 デイヴは、これほどスケジュールが過密になる前から、直属の部下カリッサと勤務評定をする予定をいれていた。

 カリッサがやってくると、デイヴはカリッサに時間が15分しかないことを説明するが、そのあいだはきみに完全に集中するからと言い添える。と同時に、そのあいだはぜったいに邪魔が入らないことを保証する。

 ところが突然、ネルソンがハリケーンのような勢いで近づいてきた。そしてマーケティングチームの無能ぶりについて、大声で怒りをぶちまけはじめた。

 デイヴはネルソンの話をさえぎり、「いまミーティングの最中だから遠慮してくれ」と伝える。そして親しみをこめた、だが断固とした口調で、話があるのならアポをとるよう伝える。そしてすぐにカリッサの勤務評定に戻る。

 デイヴは社内のスタッフミーティングに前半だけ出席したあと、メールを整理する

 必要なメールには返信し、不要なものは削除する作業に15分を費やす。そして依頼があった仕事をいくつか部下にまかせ、その内容をチーム全体にメールで知らせる。一度に集中してメールを整理すれば、信じられないほど大量のメールを受信箱から消去できることを実感する。

 電話会議まであと数分あるので、CIOのアシスタントに電話をかけ、週の後半にCIOと会うアポをとれないか尋ねる。だが「いますぐは対応できない」との返事だったので、CIOのスケジュールが空いている時間をのちほどメールで知らせてくれるよう言質をとる

 電話会議が始まる。本音をいえば電話会議はあまり好きではないが、会議中は積極的に発言することを心がけている。

 電話会議の最中に、こっそりメールやメッセージのやりとりをしたいという誘惑に駆られることもある。

 だが本気で電話会議に参加していなければ、それは相手に伝わるものだし、それでは職業人の倫理に反すると、デイヴは考えている。

 そして電話会議の話題が、自分には貢献できない分野に移ったところで退席する。

 オフィスをでると、妻と約束したランチの時刻までまだ余裕があったので、途中で花束を買い求めた。

できる人の「午前の行動」を取り入れる

 後者の例でデイヴが活用したテクニックのなかで、あなたにも利用できるものがあれば、それを書きだそう。

 たとえば、毎朝、仕事を始める前にほんの3~5分でかまわないから、今日しなければならない仕事の予定を立てよう

 そうすれば、仕事に追われて1日を受け身の対応ですごすのではなく、先を見越して行動を起こし、積極的に1日の仕事を進められるようになる。

 つねになにかに追い立てられるようにして1日をすごすのではなく、もう少し腰を落ちつけて仕事を進めるために、はたしてどんな工夫ができるだろう?

 たとえば部下や後輩に仕事をまかせる(「完全支配の放棄」とも呼ぶ)ことを想像するだけで、冷や汗をたらたらとかく人は多い。

 だが人に仕事をまかせれば、自分の時間が増えるだけでなく、一緒に働いている人たちの能力を伸ばし、後進を育てることもできる

 さらには、経験を積む必要がある部下に仕事をまかせていれば、今後、実際に仕事が山積し、どうしようもなくなったときにも躊躇せず安心して仕事をまかせられるようになる。

(本記事は、デボラ・ザック著『一点集中術――限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』からの抜粋です)