安倍「経済外交」の象徴
日・EU経済連携協定の成果
外交に強いと評された安倍政権であったが、経済外交(economic diplomacy)の面でも一定の成果が達せられた。2018年12月に環太平洋11ヵ国で発効した環太平洋パートナーシップ(TPP)協定と並び、2019年2月に発効した欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)である日・EU経済連携協定(日EU・EPA)は、その端的なケースだ。
EU27ヵ国の人口は4億5000万人程度と、世界でも有数の巨大市場である。そのEUとの貿易の拡大は、安倍首相の施政方針演説などで「アベノミクス」の成長戦略の重要な柱とされた。EU韓国自由貿易協定(FTA)の先行を許しつつも、2013年4月に開始された日EU・EPA交渉は、2017年7月には大筋で合意に達した。
貿易面では、日本からEUへの輸出に関してEU側の関税が約99%撤廃されることになり、とりわけ10%の税率が適用された乗用車に関しては8年目の全面的な撤廃が決まった。また自動車部品に加えて、一般機械や化学工業製品、電気機器などへの関税も貿易額の9割以上が、さらに農林水産品もほとんどの関税が即時に撤廃された。
他方で、EUから日本への輸出に関する関税撤廃率は約94%となった。工業品への関税は皮革・履物を除くほとんどの製品で即時撤廃となった一方で、農林水産品についてはコメが関税撤廃の対象から除外されたほか、乳製品(特にソフト系チーズ)や食肉類に関しては、一定の関税やセーフガードが確保されることになった。
EUの中国に対する
不信感が日本に対する期待へ
日EU・EPA交渉がまとまった背景には、双方の市場の全面的な開放に対する期待があったわけだが、EUが中国に対する不信を高めていたことも重要な推進力になった。世界金融危機後、債務危機などために低成長に喘いだEUは中国による投資に期待し、中国もまた「一帯一路」構想などの下、欧州に対する関与を強めようとしていた。