テスト#23Photo:Bloomberg/gettyimages

特集『賢人100人に聞く!日本の未来』(全55回)の#23では、昨年末の段階で2020年が「危険な年になる」と予見していた国際政治学者のイアン・ブレマー氏にインタビューを実施。同氏は新型コロナウイルスが地政学リスクの高まりを加速させる存在だとした上で、投開票が迫る米大統領選挙後に、大統領ポストが「空白」に陥る最悪シナリオが現実味を増していると警告する。(ダイヤモンド編集部 竹田幸平)

コロナで加速する地政学リスク
潜在的な問題が浮き彫りに

――昨年末の取材時(詳細は特集『総予測2020』の記事『地政学的に2020年は“危険な年”になる』参照)には米中のテクノロジー争いなどを理由に「2020年は危険な年になる」と話していました。そこへ新型コロナウイルスの感染拡大が訪れた形ですが、世界の地政学的なリスクの在り方をどう分析していますか。

 ユーラシア・グループが年初に発表した「20年の世界十大リスク」を読み返すと、非常に印象的です。今年は懸念していた潜在的な問題が、全て浮き彫りとなったからです。米国の大統領選挙を巡る国内の混乱、米中の関係の劇的な悪化、さらには両国の「テクノロジー冷戦」――。これらが実際に起きているわけです。

 以前から、偶発的な衝突やサイバー攻撃などの可能性が高まっているとは考えていました。ただ、20年にパンデミック(世界的大流行)に直面するとは思いも寄りませんでした。

 そしてコロナ禍は、あらゆる地政学的なリスクの高まりを加速させる存在だと考えています。いわば、私が語ってきた(国際社会を主導する国が存在しない)「Gゼロ」に関連するリスクの強力な促進剤となっているわけです。

 今はわれわれの一生の中でも、最大級の危機を迎えていると思います。やはり留意すべきなのは、米中関係がこれほどまで悪化していること。南シナ海や香港、台湾からテクノロジー、貿易に至るまで、本当にあらゆる領域で関係悪化が進みました。テクノロジー面については、米国の他にインドや英国、カナダなども中国と争い、もはや米中だけの戦いではありません。

 そして今や、米中の間に信頼やコミュニケーションはほとんどない。これは非常に危険な状況です。もし航空機の撃墜や艦船の撃沈が起きればどうなりますか?台湾海峡や南シナ海情勢が激化したらどうなるでしょうか?米中関係が突然、劇的に悪化する可能性を、われわれは考慮する必要があると思います。

 20年初から既に非常に危険だった地政学リスクの高い環境は、コロナ禍によって一段と激しくなっているわけです。

――11月の米大統領選の行方をどうみていますか。

 もはや米国で自由で公正な選挙を期待するのは難しく、トランプ氏が違法な勝利を宣言する可能性が高まっています。今回の大統領選は結果を巡り、論争に発展する可能性が高い。選挙当日、トランプ氏は勝利したと見せかけることでしょう。同氏は選挙の正当性を覆そうとしており、もはや民主主義に関心のない米国の大統領が出現しかねないわけです。